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ウロコフネタマガイ(スケーリーフット)
足に鱗を持つ深海の巻貝
本種は2001年にインド洋の深海で発見され、2003年にScience誌にその存在が報告された(Warén et al. 2013)。しかし、分類学的には記載されず、長い間「スケーリーフット」と呼ばれてきた(和名としてウロコフネタマガイという名称も提唱されている)。発見から14年後に、Chen et al.(2015)によって記載されChrysomallon squamiferumという学名が与えられた。展示標本は記載に用いられたパラタイプ標本である。
本種はインド洋の深海の熱水噴出域に生息しており、産地は3海域ある。(1)最初に発見されたのは「かいれいフィールド」である。この場所はアフリカプレート・オーストラリアプレート・南極プレートが接するロドリゲス三重会合点に近い。(2)後に、この場所よりも北にある「ソリティアフィールド」からも見つかった(Nakamura et al. 2012)。(3)タイプ産地は、上記の産地よりも南西部にあるLongqiフィールド (=ドラゴンフィールド)である。いずれの場所でも化学合成群集に固有な生物とともに発見されている。
本種が注目された理由は足に鱗状の棘を持つ点にある。黒い鱗は硫化鉄を含んでおり、後生動物の中で唯一、硫化鉄の硬組織を形成する生物として有名になった。ただし、後に「ソリティアフィールド」から発見された個体は白く、殻や鱗に硫化鉄を含まないことが明らかになった。
本種の鱗には防御の機能があると考えられる。一般的な巻貝では、蓋を使って身を守っている。しかし、本種の場合は幼若個体では蓋があるが、成長とともに退化し、蓋の代わりに足の表面にある鱗で殻口を塞ぎ身を守ると考えられている(Chen et al. 2015)。 (佐々木猛智)
参考文献 References
Chen, C. et al. (2015) The ‘scaly-foot gastropod’: a new genus and species of hydrothermal vent-endemic gastropod (Neomphalina: Peltospiridae) from the Indian Ocean. Journal of Molluscan Studies 81: 322–334.
Chen, C. et al. (2015) How the mollusc got its scales: convergent evolution of the molluscan scleritome. Biological Journal of the Linnean Society 114(4): 949–954. doi:10.1111/bij.12462.
Nakamura, K. et al. (2012) Discovery of new hydrothermal activity and chemosynthetic fauna on the Central Indian Ridge at 186–206S. PlosOne 7(3) e32965.
Warén, A. et al. (2003) A hot-vent gastropod with iron sulfide dermal sclerites. Science 302(5647): 1007.