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    バビルサ(Babyrousa babyrussa)。頭骨、全長300mm、背側前方寄り左側面。小金井コレクション

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    背側前面

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B27
バビルサ頭骨

バビルサはインドネシアのスラウェシ島周辺にのみ分布するイノシシ科の哺乳類である。バビルサは体重80㎏程度のイノシシ科の一種であるが、犬歯(牙)の発達が著しく、その異様な外貌で知られる。上下二対の犬歯は湾曲しながら長く伸び続け、上顎の犬歯は生きていた時には口の周囲の肉を突き破って上方へ成長する。曲がりながら眼の前方に至る犬歯は、老齢個体では先端が頭部に達し、突き刺さるように見える。そのため、「自分の死を見つめる動物」と呼ばれることがある。インドネシア語でバビ(babi)はブタを、ルサ(roesa)はシカを示すので、現地では長い犬歯をシカの雄の角のように受け止めてきたのだろう。イノシシのなかまでは例外的に産仔数が少なく、山林の開発とともに姿を消しつつある。

この標本は、本学医学部の小金井良精博士が収集を開始した一連の動物標本のひとつである。詳しい経緯は不明だが、大正6年8月に、貿易商より譲り受けたという記録が残っている。日本に解剖学・形態学、そして人類学を確立した小金井博士によって、比較形態学の貴重な標本として医学分野に収蔵されたものであろう。上顎と下顎は別の個体のものと推測されるが、一体で管理されてきた。骨や歯の何か所かが破損しているものの、バビルサのきわめて貴重な骨格標本であるとともに、本邦解剖学の歴史を語り継ぐコレクションである。 (遠藤秀紀・楠見 繭)

参考文献 References

遠藤秀紀(2002)『哺乳類の進化』東京大学出版会。