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21世紀の記載標本
1877年の東京大学創立以来、古生物学は途切れることなく続き、2017年には創立140年の節目を迎える。21世紀に入り、古生物学はますます盛んになり、学位取得者を連続して輩出している。
東大において生物学的古生物学への方向転換が確立された後の1990年代には、過去の研究には見られなかったキーワードが登場した。例えば、分岐分析、初期生活史、結晶成長、理論形態学、比較解剖、分子系統学、Hox遺伝子、貝殻タンパク質、コンピュータシミュレーション等の用語が当時の学位論文に用いられている。
2000年以降になると、新しい研究手法の導入がさらに進行した。同位体分析、化学合成群集、有限要素法、古生物地理、バイオメカニクス、生痕化石、行動の復元などのキーワードがこの時代の学位論文のタイトルを特徴づけている。研究材料も、貝類、アンモナイト、腕足動物、環形動物、サメ類、恐竜類、鳥類、ほ乳類など多岐に亘っており、幅広い材料で研究が行われている。
近年は毎年複数の論文が出版されており、平均して年間約300点の出版済証拠標本が新規に登録されている。また、現在では出版済標本は全て出版と同時にデータベース化を実現できている。さらに、出版されていない標本もデータベース化が進行中であり、出版済、未出版標本の両者をカバーする網羅的なデータベースの構築が進んでいる。
大学博物館においては、新しい研究が常に行われていること、それらが出版されること、研究の証拠標本が散逸することなく保存されること、標本情報がデジタル化され公開されることが重要である。地史古生物部門は、日本を代表するコレクションを擁する立場として、21世紀あるいはそれ以降の将来に向けて標本を維持管理し、次世代に伝えていくことを重視している。 (佐々木猛智・伊藤泰弘)
参考文献 References
Ito, Y. et al. (2009) Catalogue of type and cited specimens in the Department of Historical Geology and Paleontology of The University Museum. The University of Tokyo. Part. 6. The University Museum, The University of Tokyo, Material Reports 80.