B19
迷歯亜綱分椎目カピトサウルス上科の右下顎関節部
日本最古の陸生四肢動物化石
最古の陸生四肢動物は約3億8000万年前から3億6000万年前のデボン期後期に出現したが、日本の陸生四肢動物化石の記録はかなり時代がくだり、宮城県唐島の稲井層群平磯層から発見された、約2億5000万年前の本標本が最古のものである。本標本が属する迷歯亜綱分椎目は石炭紀から白亜紀にかけて生息した原始的な両生類で、三畳紀のものは扁平な体型で巨大な頭蓋をもち、現在のワニのような生態的地位を占め、大型のものでは体長6mにおよんだ。本標本では右下顎の関節部およびそれより後方の部位が保存され、側方からは上顎の関節を受けるU字型の関節の形を明瞭に見て取ることができる。この関節窩の大きさや、関節窩の前方の突起の背側への強い張り出し、関節窩よりも後方の部分が比較的大きいことなどの特徴から、本標本は分椎目の中でもカピトサウルス上科に属すると判断された。
本標本が発見された稲井層群が属する南部北上帯は、シルル紀から白亜紀まで3億5千万年もの連続層序をもつ日本で唯一の地層であり、日本列島の形成過程を考える上で極めて重要である。近年では、砂岩中のジルコンを解析することで、砂岩の供給源(後背地)の大陸を調べる研究がさかんに行われている。その結果、シルル紀からデボン期にかけては南部北上帯は大陸縁辺に存在したが、一方で稲井層群を含むペルム紀からジュラ紀前期までは、大陸起源のジルコンが見られず大陸との間に現在の日本海のような海(縁海)が存在したと考えられている。その後、ジュラ紀中期から白亜紀後期までは南部北上帯は北部中国と繋がっていたとされている。淡水域に生息し、大洋を越える能力は無かったカピトサウルス上科の化石が三畳紀前期から発見されたことは、南部北上帯が三畳紀前期までには、北部あるいは南部中国からそれほど遠くない位置に移動していたことを示している。 (久保 泰)
参考文献 References
Nakajima, Y. & Schoch, R. R. (2011) The first temnospondyl amphibian from Japan. Journal of Vertebrate Paleontology 31: 1154–1157.