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メガネカイマン頭骨
メガネカイマンは、アリゲーター科カイマン属に帰属するワニである。中南米に広く分布し、同地域の典型的なワニであるといえる。眼の周囲に隆起が生じる様子が眼鏡に似るとされ、メガネカイマンという和名が定着している。成長すれば体長は2.5m近くなる。比較的飼育しやすいとされ、以前から多くの動物園で飼育が進められ、繁殖への取り組みも行われてきた。ペットとしての飼育例も少なくない。
2011年3月11日の東日本大震災発生後に電力事情が逼迫し、関東地方でも多くの地域で計画停電が実施された。停電は市民生活や産業活動のみならず、動物飼育現場にも多大な影響を与えたことが記録されている。動物園や水族館では、十分な電源が得られない状況で、飼育環境の維持に力が注がれた。また、死亡個体を一時保存する冷凍庫が十分に運転できなくなり、死体の焼却処分を進めたり、地中に埋葬・埋却して急場を凌ぐことが行われた。
本頭骨は、震災後、冷凍庫の安定的な運転が難しくなるなか、静岡県の熱川バナナワニ園において土中に埋却された死体を再度発掘し、頭骨標本に仕上げたものである。園で生まれ若齢で死亡した個体の頭骨であり、ワニの骨格の成長の研究に用いられている。貴重な動物学の研究資料であるとともに、不慮の自然災害が学問、教育、文化に残す影響を語り継ぐ標本であるといえよう。 (遠藤秀紀・楠見 繭)