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ヌマワニ心臓
ヌマワニは、インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカなどに分布するワニである。全長5m、体重500㎏に達する。顎のサイズが大型で、成体は生息地の大型哺乳類を捕食することが可能である。緻密な生息地の分析は進んでいないが、流れのない沼や湖に暮らすといわれてきた。漁業での混獲や漢方薬目的の密猟のために数を減らし、また生息環境の破壊が進んだため、個体数は激減している。そのため、ワニ類のなかでもとりわけ厳しくワシントン条約等による保護政策がとられている。
この標本は、2015年に静岡県の動物園iZOOにおいて死亡したヌマワニから採取された心臓である。ワニの心臓は爬虫類のなかでは形態学的に特殊化している。左右の心房心室の隔離程度が高いという議論がなされてきた。しかし、その点以外にもワニ類の心臓血管系は全般的に機能性が高く、水中生活や高い攻撃性を維持するために、多様な適応的進化を遂げている。本標本は爬虫類の心臓血管系における比較機能形態学的な研究に提供され、大型のワニの心機能・循環器性能を解明するための貴重な情報をもたらしつつある。 (遠藤秀紀・楠見 繭)