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    マンガン鉱石。長野県浜横川鉱山産、1970年渡辺武男採集(PM990015)

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マンガン鉱石
過去の海洋環境を知る手掛かり

現在の海底には、マンガン団塊と呼ばれる、直径1mmから20cm程度の球形の塊や、海底の岩盤を覆うマンガンクラスト(多くは1cm 以下の厚さ、最大で15cm厚)が広く世界中に分布している。これらはいずれもマンガン酸化物と鉄酸化物を主成分とする黒色の物質であり、海水に含まれるマンガンと鉄が化学的に堆積して生成したものであるが、成長速度は100万年で1mmから1 cm程度と極めて遅い。マンガンや鉄がどのような形態で海中に存在しているのかは必ずしも明確ではなく、これらの金属元素が堆積する機構も解明されていない。マンガン団塊、マンガンクラストはマンガン酸化物と鉄酸化物を主としているが、資源として注目されるのは、副成分として含まれる、ニッケル、銅、コバルト、白金、希土類などである。これら有用元素の濃集度は、陸上の鉱床と同程度かやや高い程度であるが、鉱量が大きいことから有望な将来の資源とみなされている。

現在稼行されている最大のマンガン鉱床は、古原生代に形成された南アフリカのカラハリマンガン鉱床である(形成年代は24億年前から22億年前)。この鉱床は、マンガンの埋蔵量も産出量も世界の半分以上を占める、巨大な鉱床である。カラハリマンガン鉱床は、縞状鉄鉱層と交互に積み重なっており、海底でマンガンが堆積してできた鉱床と考えられている。海の環境は地球の進化とともに変わってゆくため、大規模マンガン鉱床が生成する条件はこの限られた時期しか整わなかったと考えられる。

展示標本は、長野県浜横川鉱山のマンガン鉱石である。古生代に海底で堆積したマンガンが変成作用を受けて生じた層状マンガン鉱床である。日本に存在する1000以上のマンガン鉱床の大半は、古生代から中生代に同様のプロセスを経て形成された層状マンガン鉱床であり、現在の海底に見られるマンガン団塊やマンガンクラストの堆積環境とは大きく異なる。すでに国内のマンガン鉱山は全て休止してしまったが、当館に収蔵されている様々な鉱山のマンガン鉱石から、鉱床が形成された年代や環境を調べることで、鉱床形成当時の海洋に関する情報を導き出す手がかりになると期待される。 (清田 馨)