東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
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テル・セクル・アル・アヘイマル遺跡遠景


テル・セクル・アル・アヘイマル遺跡の発掘


クリーニングが進む写実女性土偶

「遺丘と女神 ―メソポタミア原始農村の黎明」展について     西秋良宏

 東京大学総合研究博物館の2007年度最初の特別展は、西アジア考古学をテーマとするものです。
  植物栽培と動物飼育を主たる生業とする農耕村落は、今から1万年より少し前、世界で初めて西アジアで生まれました。それは、人類が古代文明への歩みを進めた出発点であり、経済の変化だけでなく人々の社会や世界観の変化をともなう壮大なできごとでもありました。
  東京大学の研究者がその経緯や経過を探るための現地調査を始めたのは1956年のことです。そして半世紀をへた今も、シリアを中心とした西アジアでフィールドワークが続けられています。この間、各地で採集された動植物化石、考古遺物などの標本は膨大な量に達しています。また、自然科学分析手法の発展、発掘の精緻化、解釈理論の深化などによって、当初は予想もできなかったほど詳細に初期農民の暮らしぶりを語ることができるようになってきました。
  蓄積された東京大学の西アジア標本の再分析、今も続いている野外調査が、初期農耕民の研究にどんな貢献をなしつつあるのか、半世紀後の現状を紹介するのが今回の展示です。北メソポタミアのフィールドを中心に、遺丘(丘状の遺跡)を舞台に展開した原始農村成立過程につき最新の証拠を素描してみます。また、数千年も前の食料残滓や壊れた道具をどう調べれば何がわかるのか、現代考古学の謎解きぶりも示せればと考えます。
  展示品の中で特に注目いただきたいのは、総合研究博物館が発掘中のテル・セクル・アル・アヘイマル遺跡で発見された約9000年前にさかのぼる写実女性土偶です。シリア考古遺産庁との共同プロジェクトとして、昨年来、慎重なクリーニングを続けてきた結果、この時期のメソポタミアには例がないほど高いレベルの写実性を備えた逸品であることが判明しました。最古の農民たちが築きあげつつあった最新の社会が新たな精神世界の幕開けであったことを象徴する「女神」像です。それを今回初めて公開します。     (本館教授 先史考古学)

●主な展示品
約9000年前の写実女性土偶(実物公開は6月10日まで、以後レプリカ展示)、土器、靴跡、
農耕牧畜の発達過程 を語る動植物化石ほか(総合研究博物館蔵)、最古のペット猫の墓
(キプロス島、フランス国立自然史博物館 蔵/レプリカ)等
●主なトピックス
植物の栽培化には何年くらいかかったか /動物の家畜化はなぜ始まったか
イヌやネコを飼い始めたのはいつか /原始農村の人々は靴をはいていたか
セメント産業のルーツ


会場風景 (撮影:松本文夫)


展示構想のイメージ・スケッチ (洪恒夫)


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