東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
HOME ENGLISH SITE MAP



驚異の小部屋

東京大学総合研究博物館モバイルミュージアム
メゾンエルメス1F ヴァンキャトル・セゾン

メゾンエルメスにおける「驚異の小部屋」は、東京大学に蓄積された古い学術標本と、教育研究の歴史を担ってきた什器によって構成される展示に、エルメスの商品を配して完成される相補的な空間である。大航海時代以降、西欧の王侯貴族は「驚異の部屋(ヴンダーカンマー)」と呼ばれる珍品陳列室を競いあった。未知の「モノ」に対する原初的な驚きの感覚は、体系的な知の獲得へ先立つものであるとともに、新たな知へ人々を駆り立てる原動力となった。

「驚異の小部屋」をかたちづくる学術標本は、かつて、あるいは今でも、大学における教育研究を担うミュージアム・コレクションである。一方で、そうした学術的位相もさることながら、造形的特性の多様性という側面は、学術標本に「デザイン資源」としての活用の可能性を拓く。エルメスの商品ととともに陳列された学術標本や什器は、相互に最適な組合せを模索しながら、全体としてひとつのアートとみなしうる究極のミュージアム空間を構成している。

本展示は東京大学総合研究博物館が展開する実験企画「モバイルミュージアム」のひとつに位置づけられる。「モバイルミュージアム」とは、学術標本をミュージアム・ユニットとして再編成し、社会のさまざまな場所に流動させる「遊動型博物館」の試みである。これまでのミュージアムは、その内部空間に人々を呼び込むことで成立し、固定化された施設建物内に自閉したかたちで活動を展開してきた。対する「モバイルミュージアム」は、蓄積されたミュージアム・コンテンツを都市空間へ持ち出し、日常を異化させる。すなわち、既存のコレクションを流動化させ、その価値を幅広く社会に伝えようとする試みに他ならない。

学術標本のデザイン資源化プロジェクトとして、また、ミュージアムの活動領域の拡大を図る文化的ツールとして、メゾンエルメスでの本展示「驚異の小部屋」は次世代型ミュージアムのひとつのあり方を社会に問おうとするものである。

西野嘉章(本館教授、博物館工学/美術史学)


会場写真のスライドショー