東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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ウロボロス開館10周年記念号

総合研究博物館の10年を振り返る

林良 博 (本館館長/国際動物学)

本館が総合研究資料館から総合研究博 物館に改組されてからの10年間は、本館の広報誌である『ウロボロス』の歩みと一致します。私は館長として、創刊号の巻頭に、以下のように述べました。
本年の5月11日、日本で初めての大学博物館が誕生しました。資料館が東京大学に設置されたのは1966年のことでしたので、本年は30周年にあたります。総合研究資料館は、正式な日本語名称は資料館でありながら、設立当初から英名としてUniversityMuseum を当ててきました。この英名にこめられた大学博物館への発展的改組の願いが、本館に係わってこられた多くの大学人の粘り強い活動によって達成されたのです。私たちは、こうした先人たちの努力に感謝するとともに、大学博物館誕生の喜びを共に分かち合いたいと思います。
本館は大学博物館に改組されましたが、資料館時代の優れた活動である学術資料の収集、整理、保存を放棄するものではありません。東京大学には400万点を超える学術資料が保存されていますが、これらは東京大学創立以来120 年にわたる研究・教育を通して収集、整理、保存されたものであり、その成果を基礎にして今日の大学博物館があることを忘れることはできません。とすれば、120 年後の大学人のために私たちは今後も優れた学術資料の収集、整理、保存の努力を継続する必要があるでしょう。
この決意はその後の10 年間変わることがありませんでしたし、現在も変わりません。むしろ本学が収集した以外の標本、たとえば東京都の施設に保存されていた標本が、同施設が閉鎖されることに伴って本館に移管されるという予想以外の事態が生じました。このような出来事は本館にとって「喜ばしいこと」かもしれませんが、日本全体としては「悲しむべきこと」です。  
指定管理者制度が導入されたことにより、全国の博物館や美術館において効率化の嵐が吹き荒れています。「適切な効率化」はいかなる施設においても必要なことではありますが、「過度な効率化」を求める昨今の風潮は、博物館や美術館の本来の使命を損なうものです。いま一度、博物館法の原点に立ち返って、21世紀のあるべき博物館の姿を考え直すべきです。
大学博物館においても2つの問題があると私は思います。
第1は、10年前に本館が誕生して以来、京都大学、東北大学、北海道大学というように、毎年大学博物館が誕生しましたが、その動きを全国の大学に広めたいという私たちの願いとは逆に、最近は「各大学の自主判断」のレベルに低下してしまいました。大学法人化によって、国による大学博物館設置の動きが止まってしまったのです。物事は、国レベルで考えること、大学レベルで考えること、部局レベルで考えること、学科レベルで考えることというように多層構造をなしておりますが、博物館の設置は明らかに国レベルで考えることです。
第2 に、大学法人化によって、大学の経営者が博物館の役割に注目し始めたことです。これまで冷遇されていたことを考えると、経営側が博物館に目を向けたこと自体は歓迎すべきことですが、「大学の広報の一環」としてのみ博物館の役割を捉えると、博物館のもつ研究・教育機能が後退してしまいます。全国の大学博物館関係者のなかにある一種の戸惑い、すなわち、経営側の期待と博物館側の期待の齟齬が今後ますます大きくなることを私は危惧しています。
幸いにも本館は、博物館に対する全学的な深い理解を得て、過去10 年間にわたって当初の理念を貫くことができました。これからの10年間、ますます厳しく効率化を求める社会環境のなかにあって、揺らぎのない研究・教育機能をもとにした公開実験展示を発展させることができるよう、関係者一同奮闘致しますので、全学のより深いご支援をお願い申し上げます。

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