1996年度(平成8年度)
江戸時代の植物学
11月13日〜12月18日
「日本植物研究の歴史をさかのぼる――小石川植物園三百年の歩み」展に対応した講
座。近代植物学は明治時代に西欧からの移入
によって誕生した。一方、それに先立つ江戸
時代には、薬草を研究することを目的とした
本草学の中で植物学の研究も進められてい
た。本草学の隆盛は日本の近代植物学にも大
きな影響を及ぼした。本講座では、マルチメ
ディアを用い多くの資料を眺めながら、江戸
時代の植物学の世界を探り、その内容は大場
秀章著『江戸の植物学』(東大出版会、1997年)
にまとめられた。
ネアンデルタール人骨を掘る
1997年1月23日〜2月27日
西アジアの巨大洞窟デデリエで1987年以来
続けられている発掘の経過を紹介しながら、
われわれ現代人の直接の祖先とされる新人の
出現と前後して忽然と姿を消すといわれるネ
アンデルタール人とは何か、どのような生活、どのような姿・かたちをしていたのか、最
新の調査結果をもってネアンデルタール人とわれわれとの関係を探った。
地球の内部と地球の外部
1997年2月1日〜3月1日
地球が宇宙の歴史や構造と深く関わりあっていることは直感的にはなかなかわかり難い。しかし、地球内部の物質と地球外の星などの物質によく似た点があることは、隕石の研究などから明らかにされている。本講座では、われわれの地球と宇宙の関係について、
最新の研究成果を易しく解説した。また、ふ
だん身近に触れている物質、たとえば、変成
岩やダイアモンドなどが、地下深部の状態を知る鍵になっていることを解き明かした。
1997年度(平成9年度)
地球システム
1998年1月10日〜2月7日
地球に関する公開講座はこれまで3 回行なわれてきた。そのまとめとして、地球がひとつのシステムであるという視点から講義を行なった。特に人間生活と関わりのある資源、災害、環境などの問題が地球システムの中でどのように位置づけられ、相互に関連し合っているかを解説した。
文明以前のオリエント
1998年2月6日〜3月12日
世界で初めて都市文明が生まれたのは、オリエントとよばれる現在の西アジア地域である。農耕・牧畜、分業、神殿、金属生産、文字など、古代オリエントが成し遂げた偉大な社会経済上の発明は多い。本講座では、それらの発明が文明の成立にいかに貢献したのか
を館蔵品に言及しながら解説し、文明発祥のプロセスについて概観した。
1998年度(平成10年度)
江戸東京の中の異国
1999年2月5日〜3月26日
江戸時代の日本は中国・オランダと「通商」
し、朝鮮・琉球と「通信」していた。このことだけを考えても、「鎖国」という言葉が示すようには、当時の日本が国際情報の途絶した社会ではなかったことがわかる。人の交流は限られていても、物の流入を止めることはで
きない。異国の珍奇なる動物は盛り場で見せ
物にされ、珍奇なる道具は唐物屋の店先を飾った。本講座では、江戸時代の持つこうした国際性を、文明開化期まで視野に収めて多角的に考察した。
博物標本の作製:その理論と実際
1999年2月15日〜2月18日
自然界にはさまざまな岩石、植物、動物がある。そのひとつひとつを克明に調べ、地球
とそこに暮らす生き物の進化・多様性を解明することは博物館の大きな使命であり、博物館ではいろいろの標本の収集に努めている。
標本の作り方は鉱物と植物、動物で異なり、
同じ動物でも哺乳類と魚類、昆虫では全く異なっている。本講座では、各分野の第一線で
活躍する研究者が標本の作成法について講義し、受講者に実際の標本作製を体験してもらった。
1999年度(平成11年度)
隕石−太陽系の歴史の証人
9月6日〜9月10日
「ふしぎ隕石」展に対応した講座。展示を
使った講義も行なった。隕石は小惑星帯に起源をもち、太陽系が誕生して現在の姿まで進化した過程を記録したモノであるといえる。
本講座では、46億年の歴史を研究者がいかに解き明かしているかを、いろいろな角度から検証した。
ニュースの誕生−かわら版と錦絵新聞の情報世界
10月15日〜12月3日
「ニュースの誕生―かわら版と新聞錦絵の情報世界」展に対応した講座。かわら版は幕末に、錦絵新聞は文明開化期に出回ったニュースメディアである。どちらも、災害や奇談や殺人など市井の事件を伝えた。とりわ
け、火事や地震の被害を伝えるかわら版は、
事件直後から大きな需要があった。しかし、
その主観的な報道姿勢ゆえに、これまでは、
日本における新聞の成立前史のメディアと位
置付けられることが多かった。本講座では、
それらがどのように社会の中を流通したかを
多角的に探り、ひるがえって、かわら版と錦絵新聞独自の情報空間を解明していった。
2000年度(平成12年度)
江戸の考古学−加賀藩本郷邸を掘る
5月26日〜7月7日
「加賀殿再訪―東京大学本郷キャンパスの遺跡」展に対応した講座。構内発掘の担当者や加賀藩史料の研究者が、加賀前田家の生活と文化をやさしく解き明かした。それによって、従来文献史学や建築史学、民俗学の研究
対象であった江戸学に対し、考古学がどんな寄与をなしつつあるかについて考えていった。展示に加え、本郷構内の江戸史跡も訪れた。
フィールドワークの愉しみ
11月7日〜12月12日
博物館には動植物、岩石などの自然界のさまざまな標本だけでなく、人間による生活道具や芸術品にいたるさまざまな資料が収蔵さ
れているが、これらの資料を収集する過程も重要である。本講座では、収集を含むフィールドワークにおける苦労・愉しみなどを紹介した。
2001年度(平成13年度)
寿司ネタの自然史
10月12日〜11月9日
海に囲まれた国、日本はたくさんの海洋生物に恵まれ、さまざまな海産物を食材として利用している。その豊かな自然の恵みを最大限に生かした「寿司」は、日本が世界に誇る最高の食文化である。しかし近年日本の水産資源は、環境破壊や乱獲により、深刻な打撃を受け、水産物の4 割を輸入によってまかなっている状況である。本講座は、寿司ネタにされる生物の多様性、生態、分布、鑑定法の基礎知識を得るだけでなく、21世紀の地球環境の重要性についても理解を深めてもらうことを目的とした。講座内容は大場秀章他著『東大講座 すしネタの自然史』(NHK 出版、2003 年)にまとめられた。
シーボルディアーナ(2)−シーボルトの多面性
2002年1月28日〜2月1日
江戸時代、1823 年に来日したシーボルトは、多方面にわたってそのマルチ人間ぶりを発揮して活躍した。その結果、日本やヨーロッパの文化に今日まで続く強い影響を残している。本講座は、2000 年度に本館で開催された「シーボルト日本植物コレクション」展の第2 弾として行なわれたもので、シーボルトが与えた文化・社会への貢献・意義を最近の研究成果と交えて紹介した。
2002年度(平成14年度)
古代オホーツクの氷民文化
5月31日〜7月5日
「北の異界―古代オホーツクと氷民文化」展に対応した講座。日本列島の数ある先住民のなかでも最もミステリアスな集団のひとつである「オホーツク人」。樺太方面から渡来したこと、流氷の接岸する地域に集落を構え海獣狩猟と漁労と生計をたてていたこと、クマを崇拝する伝統をもっていたこと、やがて在地の先住民と融合しアイヌ民族伝統の基礎を作ったことが野外調査によって続々と明らかにされつつある。本講座では、列島の北端で継起したこの独特な先住民文化の消長をやさしく解き明かし、一般の日本列島史で語られることのない一面に光をあてた。
人類進化史研究の最前線−化石と分子と先史
2003年1月16日〜2月27日
人類の起源から新人の出現まで、毎年のように新発見や最新の分析結果が相次ぎ、マスコミをにぎわせている。本講座では、最近3年間になされた重大発表を専門家の視点から分かりやすく解説。各分野ごとにネイチャー、サイエンス誌など有力専門誌に掲載された論文を中心に、最重要発見のトップテンを提示し、それらの新発見の実状に切り込み、その意義の評価解説を行なった。
2003年度(平成15年度)
シーボルトの21世紀
10月27日〜10月31日
「シーボルトの21世紀」展に対応した講座。オランダ政府の植民地政策の担い手として江戸文政年間に来日したシーボルトは、日本人に最新の西洋医学を伝える一方で、動植物や鉱物、歴史など日本のあらゆる事物に関心を示し、標本・資料を収集し、これらは後にオリエントの「さらなる東方」の文化を文字とは別の方法で伝え、19世紀のヨーロッパに少なくない影響を及ぼした。明治の東京大学開学に教師として来日したモースは、かつてシーボルトがそうしたように日本を即物的にアメリカ合衆国に伝えることに成功した。巨大な成果を生んだこの種の学術探検は21世紀には不要なのだろうか。この問いに答えることは21世紀に生きる私たちにとって重要な意義をもつ。本講座では、シーボルトの現地調査と帰国後の活動、モースとの対比などを通じて、この問いへの回答を探ることになった。
「石の記憶」展にちなんで
2004年2月19日〜20日
「石の記憶―ヒロシマ・ナガサキ/被爆資料に注がれた科学者の目」展に対応した講座。故渡邉武男東京大学名誉教授が原子爆弾被害調査団の物理班地学グループのリーダーとして広島・長崎の現地調査に当たった際に収集し、持ち帰った被爆の状況を伝える貴重な岩石や窯業資材などの標本を展示した特別展示にちなんで行われた。被爆調査団、写真、被爆地としての広島、フィールドワークという様々な視点から講義を行なった。(本講座は、公開セミナーとして行なった。)
2004年度(平成16年度)
ディジタルとミュージアム
10月2日〜12月26日
「ディジタルとミュージアム」展に対応した講座。近年ディジタル技術は各分野に広まり、われわれの生活に欠かせないものになってきている。本講座はディジタル技術と博物館の接点を中心に「『ディジタル』とは何か」「文化とディジタル」「芸術とディジタル」「国際化」「新しいミュージアムの形」などの観点から、東京大学内外の各分野の見識者によるシンポジウム形式とし、「新しいミュージアムの形」を求めて意見を交わす場として全講座のまとめを行なった。
建築・メディア・博物館
2005年2月7日〜2月10日
「メディアとしての建築―ピラネージからEXPO70 まで」展に対応した講座。メディア(ジャーナリズムや印刷物)の中に捉えられた建築やそれ自体がメディア(情報媒体)となることを目的にデザインされた建築などを題材に、社会の中での建築とメディア、ひいては博物館の役割について考えた。(本講座は、公開セミナーとして行なった。)
2005年度(平成17年度)
関野貞アジア踏査
6月10日〜7月8日
「関野貞アジア踏査―平等院・法隆寺から高句麗古墳壁画へ」展に対応した講座。100年ほども前に関野貞が発見し調査した日本、韓半島、中国大陸の文化遺産、その後の保護施策、研究の進展、現在の状況などにつき広い視点から考えた。
標本は語る−自然の体系をめざして
11月28日〜12月2日
「Systema Naturae―標本は語る」展に対応した公開講座。あまりにも雑多でとらえどころがなかった自然を体系化という方法で理解することがリンネにより提唱された。リンネは「種」を体系化のための基礎にすえた。自然を種に区分する一方で、類似する種を集めてグループ化することで、自然を体系することがリンネやリンネ以降の学者によって試みられてきた。分析の重要な素材となったのが標本である。本講座では、主として展示を担当した専門家が標本とその背景、標本からわかること、標本を収集することの意義などについて語った。
2006年度(平成18年度)
時間と空間−デザイン・記憶・追跡・再現・揺らぎ
9月11日〜9月15日
「時空のデザイン」展に対応した講座。私たちの住んでいるこの世界はいったいどのような世界なのか。今私たちはミクロの極限である素粒子の世界から、反対の極限である宇宙の果てまで、この世界が多様で豊かな構造を持っていることを知っている。この美しく多様な世界はどのような原理に基づいて作られているのか。物理学者は、私たちを取り巻いている時間と空間の世界は相対論、量子論という物理学の基本法則を縦糸とし、偶然性が大きく結果を支配する数理法則を横糸として織りなされていると考える。本講座では、私たちの多様で豊かな時間と空間の世界を多角的な切り口で眺めた。