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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime12Number3

『鳥のビオソフィア――山階コレクションへの誘い』展に携わって

山崎 剛史 (山階鳥類研究所/ 鳥類学)


 東京大学総合研究博物館と山階鳥類研究所が主催する『鳥のビオソフィア・山階コレクションへの誘い展』は、山階鳥類研究所の所蔵名品を過去最大規模で公開する展覧会である。出品する鳥類標本は、剥製・骨格・卵など多岐に渡っており、総数300点を超える。また、ジョン・グールドの『ハチドリ科鳥類図譜』を始めとする19世紀の鳥類図譜も多数展示される。私は、山階鳥類研究所の研究員として所蔵標本の管理を担当していることから、この展覧会の準備に携わる機会を得ることができた。
鳥類学を専門としている私から見ると、鳥のビオソフィア展の特筆すべき個性は、“美しさ”という観点を前面に打ち出している点にある。図譜はともかくとして、自然史標本は、普通、理学の枠組みの中で語られる存在であり、展示される場合には、何らかの科学的知識の普及啓蒙を目的とすることがほとんどである。これに対し、今回の展覧会では、標本を“美術品”として提示し、潜在する魅力を引き出すことに重きが置かれる。
 このようなコンセプトは、美術史学・博物館工学を専攻されている西野嘉章教授を始めとする東京大学総合研究博物館の方々が、山階コレクションに出会うことによって生まれた。研究所の標本は、創設者である山階芳麿博士の蒐集品を核として、東京帝室博物館、東京帝国大学、生物学御研究所等からの移管品を含んでいる。その大半は19世紀末から20世紀初頭にかけてのものであり、かつての博物趣味の面影を色濃く残している。今回の展示の内容は、山階コレクションのこうした特色を強調するものだ。
 鳥のビオソフィア展の準備が開始された昨年の初夏、初めて東京大学総合研究博物館のスタッフを連れて標本収蔵庫に入ったときのことは、今も強く印象に残っている。彼らは標本の華麗な羽色に見入るだけに止まらず、標本に付されているラベルや台座、果ては保存用の紙箱、標本箪笥に至るまで、じっくりと眺めてはそのたびに感嘆の声を上げていた。その姿は私の目にはとても新鮮に映った。恥ずかしながら、これまで私はそうした観点から標本を眺めたことが一度もなかったのだ。私は理学研究の材料としての標本しか知らなかった。
 “美しさ”という観点は、博物学が自然科学としての体裁を整えて行くに従い、この世界に携わる者の心から無骨にも失われてきたのであろう。今回の展覧会の準備を通じて、私は初期の博物学者達の感性に初めて触れたような気がしている。このような得難い経験をさせてくださった東京大学総合研究博物館の皆様方に深く感謝の意を表したい。

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図.多様な標本ラベル.山階コレクションは、さまざまな組織・個人からの移管品を含むため、標本ラベルのデザインも多種多様である。
図.多様な標本ラベル.山階コレクションは、さまざまな組織・個人からの移管品を含むため、標本ラベルのデザインも
多種多様である。


本剥製標本(ハチドリ科ほか)
本剥製標本(ハチドリ科ほか)

木製収蔵棚に整理された仮剥製標本
木製収蔵棚に整理された仮剥製標本