清田 馨 (神奈川大学理学部/本館研究事業協力者/地球惑星科学) 鉄を含む鉱物は約1000種ある。現在知られている鉱物種約4000のうち4分の1が鉄を含む鉱物種である。鉄が地殻に含まれる元素で4番目に多いことは、鉄を含む鉱物が多い理由の一つと考えられるが、種が多いことは鉄の持つ化学的性質によるところも大きい。鉄は金属、2価鉄、3価鉄の状態をとり、それぞれの状態での振る舞いが異なる。たとえば、3価鉄は2価鉄に比べ水への溶解度が桁違いに小さいため、水に溶解して移動した2価鉄が、3価鉄に変わることで沈殿する(鉱物になる)現象を生じる。性質の違いは地球化学的に鍵となり、例えば、ある岩石中に、ある種の鉱物が存在することは(逆に存在しないことは)、その岩石が生成した環境や、生成後の地質学的経歴を推察する助けとなる。 存在度の大きい鉄は地殻に広く分布しているが、資源として利用するのは鉄が異常に濃集した鉄鉱床である。現在、鉄資源の大部分は縞状鉄鉱層(Banded Iron Formation、BIF)という堆積性鉱床から得られている。この鉱床は大陸地域にあり、ほとんどは27億年〜19億年前の地質体に存在する。この大規模な鉄鉱床がこの時期に形成された理由を解き明かすことは、地球の進化過程を知るための大きな手がかりとなる。BIFは鉄鉱物を主とする黒色赤褐色の層と、石英(SiO2)を主とする白色の層が繰り返し積み重なったものである(写真1)。鉄鉱物は主に磁鉄鉱(Fe3O4)や赤鉄鉱(Fe2O3)といった酸化鉱物、あるいは硫化鉱物の黄鉄鉱(FeS2)からなる。いずれも鉄鉱物として普通に産出する鉱物で、例えば、磁鉄鉱は玄武岩のような火山岩にも含まれている。日本の海辺では、砂浜に黒い砂鉄が集まって模様を作っていることもあるが、この砂鉄は主に磁鉄鉱(およびチタン鉄鉱)からなる。砂鉄の濃集規模が大きくなれば砂鉄鉱床(残留鉱床)として利用され、かつて日本の重要な鉄資源であった。堆積性の鉄鉱床はBIF以外にも鉄鉱層がある。また、沼鉄鉱床という沼沢地に温泉や鉱泉に含まれる鉄が沈殿してできた鉱床もある。沼鉄鉱床は針鉄鉱(FeOOH)などからなる低品位で規模の小さい鉱床であるが、日本では重要な鉄資源であった。また火成活動による鉄鉱床もある。 重要な鉄鉱石の一つである赤鉄鉱は3価鉄の酸化鉱物で、灰黒色金属光沢の結晶として産出することがあり(写真2)、鏡鉄鉱とも呼ばれる。金属光沢を持つ鏡鉄鉱をつぶして粉末にすると、赤鉄鉱の名の通り赤(褐)色になる。話は飛ぶが、火星が赤い理由はこの赤鉄鉱の存在による。火星に赤鉄鉱が存在する理由を解き明かすことは、火星の環境や形成史、大気・気候を知る手がかりになる。赤鉄鉱の英語名hematite(ヘマタイト)は、ギリシャ語で血赤石を意味するhaimatitisに由来する。ヒトの血の赤血球に含まれ酸素を運搬する、あのヘモグロビンと同じ語源であり、鉄はヘモグロビンの中心で酸素の運搬に関わっている。この赤鉄鉱は、金属鉄の原料として使われるよりも遥か以前から赤色顔料のベンガラとして利用されていた。人類とは長い付き合いの鉱物である。 我々の生活に欠かすことの出来ない資源としての鉄は、一方で地球科学・惑星科学における謎解きの鍵ともなる。身近な存在の鉄を、改めて眺めなおしてみたい。
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