東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime17Number3



準備プロセス
インターメディアテク開館準備活動の最中― 記号世界の大集結

大澤  啓  (本館インターメディアテク寄付研究部門特任研究員/美学・美術史学)

 学術研究と文化創造を架橋し、人間の知的・感覚的活動の網羅的な把握を試みる学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」では、その開館準備活動に見られるように、新しいミュージアム像を描くユニークな収蔵展示方針と運営計画が実施されている。
 旧東京中央郵便局内にインターメディアテクを開館するにあたって、東京大学創立以来、徐々に蓄積されてきた様々な分野にわたる膨大な標本や史料体を一気に集結することとなった。その大半は孤立したものではなく、コレクションや史料集など、特有の歴史と意義をもつグループを成す所蔵品である。有名なコレクション又は専門研究の軸となった史料体であっても、あるいはインターメディアテクの開館に向けて制作された新しい作品群であっても、それぞれはすでにひとつの世界を成している。そこで最初に生じたのは、いかにしてこの多様な世界をインターメディアテクが占める三千平米内に組み込み、新しい意味合いを付与し構成していくか、という基本的な課題である。それは、インターメディアテクのひとつの方針として、訪れた人々に展示品をただご覧いただくのではなく、各々の来館者の目線によって新たな世界を構成してほしいと考えるからである。
 しかし、我々が数ヶ月をかけて丸の内に運び込んだのは標本だけではなく、同様に大切にしてきた多数のアンティーク什器である。東京大学で代々使用され、不要と見なされた什器を回収し、それらに補修又は新たなデザインを施し、展示空間のみならずオフィスや収蔵庫まで、インターメディアテク全館にわたって展開している。それぞれの什器には独特のデザインと質感、固有の来歴があり、ひとつの物語が秘められている。それがその什器に収められる標本がもつ世界と交差し、様々な時間性と過程が重なる。そこで来館者を迎えるのは、一般の博物館を拘束する「見学順路」に沿った一義的な物語ではなく、自由に展示を巡ることによって予想外に生まれる様々な物語である。
 インターメディアテクでは学術研究と文化創造との融合を図るが、それぞれの進展過程と同様に、インターメディアテク自体における開館準備設営はある種の「ワーク・イン・プログレス」である。予め計画された枠の中に展示やイベントが展開されるのではなく、学術研究と展示デザインを結ぶ様々な実験を経て色々な展示モデュールが生まれ変わり、有機的な世界が生成されていくように見える。その結果、開館後もインターメディアテクでは収蔵と展示、そして常設展と企画展の区別が曖昧であり、その曖昧さをもとに来館者もインターメディアテクを訪れる度に自分の体験をひとつの「ワーク・イン・プログレス」として展開できるだろう。
 また、インターメディアテクの「受け皿」となる建物自体とそのインテリアデザインは、ミュージアムの展示デザインと切り離せないひとつの世界である。それは、本来のモダニズム建築を生かしつつ、そこで公開される展示と呼応するようにデザインされ、展示物がもつ歴史が内装デザインを通してインテリアに刻み込まれているからである。そうすると、インターメディアテクが宿る建築自体も、いわゆるニュートラルな「箱」ではなく、ミュージアムとその活動と一体化するひとつの記号世界として立ち現れてくる。
 出版、情報発信、ブティック構想など、開館までのソフト面の活動に関してもインターメディアテク全館に共通する歴史観とデザイン方針を適応させ、展示と同じように研究や実験の成果と見なす。そういう意味でインターメディアテクを、ウェブサイトや出版物からインテリアまで各要素がカスタマイズされ、あらゆる層に統一性のある「トータル・ミュージアム」と呼ぶのも過言ではないだろう。



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