茅根 創(本学大学院理学系研究科教授/サンゴ礁学)
本郷宙軌(琉球大学・日本学術振興会特別研究員PD/サンゴ礁学)
地理資料部門では1980年以降、日本国内・太平洋・インド洋においてサンゴ礁の調査を行っており、現生サンゴ標本および化石サンゴ標本を200点以上採取してきた。これらの標本に加えて、コレクションには多数のサンゴ礁掘削コア試料も含まれる。さらに、2008年には国土交通省京浜河川事務所より沖ノ鳥島産造礁サンゴの標本(80点以上)が寄贈されコレクションに加わった。これら標本は、博物館資料として登録し、博物館のウェッブミュージアムで情報を公開している。
http://umdb.um.u-tokyo.ac.jp/DChiri/utcoraldb/index.html
標本は、理学系研究科旧地理学専攻があった理学部2号館地下に保管されていた。しかし、専攻が5号館さらに1号館に移転し、その後地球惑星科学専攻に合同した後も、生物科学専攻の2号館地下に残され、同専攻より移転を相談されていた。行き場がなくなっていたところ、博物館2F小展示室周囲に保管場所を確保していただき、本年すべての標本の移転を完了した。さらに、2009年には東京大学大気海洋研究所からパラオや国内において採取された数百点の現生サンゴ標本が寄贈され、これも博物館サンゴ標本資料として追加された。ほかにも古生物部門には地質時代の化石サンゴ標本が多数保管されている。
保管場所として手当てしていただいた2Fには、廊下に面したガラスの展示スペースがあったことから、貴重な標本を保管とともに展示できればと考えた。公開利用経費に申請し認められたので、展示の棚をつくり、サンゴ標本の展示をすることができた。
展示ではサンゴ標本から、現生サンゴや化石サンゴを50点程度紹介している。2階廊下沿いの展示スペースの右側には沖ノ鳥島産の現生サンゴ標本(25点)および掘削コア試料(木箱ケース)を展示し(図1)、左側には日本国内・太平洋・インド洋の現生サンゴ(15点)・化石サンゴ(9点)を展示している。中央には巨大ハマサンゴ(鹿児島県喜界島:完新世)の一枚スラブを展示している。
今回メインの展示を行った沖ノ鳥島のサンゴ標本は、同島のサンゴ相を明らかにする上できわめて貴重なものである(図2)。沖ノ鳥島は日本最南端にある卓礁で、行政区分は東京都であるが、東京から1740km、硫黄島から720km、沖大東島から670km 離れている。そのため周囲に40万平方kmもの排他的経済水域(EEZ)を有する、我が国の主権にとってきわめて重要な島である。同島は水没した火山島の上にサンゴが1500mも積み重なって造ったサンゴ礁の島であり、今世紀の海面上昇にもサンゴ礁が追いついていけるかが、領土維持の鍵である。しかしながらこれまで沖ノ鳥島のサンゴ相について、これまで完全なリストはまとめられていなかった。そのため、サンゴの世界的分布核心域に接していながら、同島のサンゴ相は生物地理の空白域となっていた。
博物館の標本を再度精査して、沖ノ鳥島におけるサンゴの種リストを完成させ、サンゴ礁学会誌において公表した(Kayanne et al. 2012: https://www.jstage.jst.go.jp/article/galaxea/14/1/14_73/_article/)。同島のサンゴ種数は熱帯にありながら93種(より高緯度の八重山諸島の4分の1)と少なく、孤立した島の貴重なサンゴ相を示している。沖ノ鳥島のサンゴの多様性が小さいことは、同島が小さな卓礁でありサンゴの生息場の多様性が小さいことと、孤立しているため他のサンゴ礁からサンゴ幼生の加入の機会が少ないことによって説明される。
左側では主にパラオのサンゴを展示しているが、実は、沖ノ鳥島とパラオは九州パラオ海嶺と呼ばれる、水没しつつある一続きの島弧上で、2つだけ残った島なのである。
本展示の棚・デザイン等はエムクリエーションが行った。展示には、博物館公開利用経費と海洋アライアンスイニシャチブの支援をいただいた。試料の移設、展示にあたって、博物館の佐々木猛智准教授はじめ、博物館スタッフに大変お世話になった。記して感謝します。