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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime19Number2



小石川分館
親子小石川ミュージアムラボ2014夏!
〜「小石川ミュージアムラボ」という試み〜

坂井 景(小石川分館学生ヴォランティア/ 法学部第3類3年)

 本稿では、小石川分館の学生ヴォランティアが企画し2014(平成26)年8月23日(土)と24日(日)に開催したイベント「親子小石川ミュージアムラボ2014夏!― 歩く!? 飛ぶ!? 泳ぐ!? あなたがつくる未来の家」の報告を行う。

小石川ミュージアムラボに至るまで
 2013(平成25)年12月に建築ミュージアムとしてリニューアル・オープンした小石川分館では、従前から学生がヴォランティアとして活動を行っている。メンバーの背景はさまざまで、新規加入や卒業により年度毎に入れ替わりがあるため、相互に面識のないヴォランティアも少なくない。しかし、通常の活動以外に、イベントを企画してより積極的に活動することを希望していたメンバーが多く、まずは実現にむけ実行委員会を有志で結成することにした。
 最初のミーティングの際に、ヴォランティアを中心に1からイベントをつくりあげることで一致し、小石川分館の新たな常設展示「建築博物誌/アーキテクトニカ」にふさわしい企画を模索することとなった(2012年度までは小石川分館では毎年夏休みに「親子見学会」として小学生とその保護者を対象とした解説会を開催していた)。ヴォランティア企画イベントの名称を「小石川ミュージアムラボ」としたのは、学生ヴォランティアが小石川分館ならではの試みを継続的に開催してゆきたいという思いを込めたためである。
 その第1回目のチャレンジが今回報告する「親子小石川ミュージアムラボ2014夏!」である。

小石川分館だからできることとは
 はじめに、イベントの日程を夏休み中の土日、対象を小学生と保護者と定めた。そのうえで、夏休みの自由研究にも資する、親子で参加して楽しめる内容で、この小石川分館だからこそ挑戦できるものと視点が定まった。
 その視点に基づき、解説だけでなく実際に手を動かせるイベントで、現在の展示や小石川分館に関するもの、「小石川分館らしさ」とは何かと考えながら、各自が企画書を作成して持ち寄った。
 そうして誕生したプログラムでは、小石川分館の建物として活用されている重要文化財「旧東京医学校本館」の2度の移築の経験と、モンゴルの伝統的な移動式住居であるゲルの展示という2つの要素を抽出して、建築と移動とに焦点をあてたワークショップを開催することとなった。

ユニークなイベントの実現のために
 ワークショップのメインには建築模型の制作を据えた。テーマは「未来の家」。より正確にいえば、「未来の動く家」つくりである。子どもを中心に親子で協力して「未来の家」をつくってもらうのだが、特に制作物の内容とプログラムの構成について工夫を凝らした。その工夫と当日までを振り返る。
 まず、そのタイトルに「歩く」「飛ぶ」「泳ぐ」といったおよそ家に似つかわしくない動詞があるように、子どもたちの自由な発想を重視したいと考えた。イベントのキャッチコピーも次のようなものだ。「『未来の家』と聞いて、どんな家を思い浮かべますか。動く城、空飛ぶ家、海賊船……『移動できる家』を作品にして展示してみましょう」。
 つまり、内容は「つくる」だけではない。「つくる」の前後に、(小石川分館とその展示を)「みる」、そして制作物を「展示し」、「発表する」という4つを組み合わせたプログラムなのである。
 基本事項が定まったところで、ヴォランティアは制作担当班と解説担当班に分かれて準備を進めていった。前者は材料の選定や調達を行い(参加者の想像力を刺激できるよう、展示標本にも使用されている模型材料と身近な材料を組み合わせた)、後者は館内展示をコンパクトに回り、制作にいかせるようなゲルや建物の説明を考えた。さらに、自分たちでも「未来の家」の制作・展示・発表の全てを実験し、それをもとに時間配分や制作形式を検討した。
 また、参加者の緊張感をほぐし、創作意欲をかきたてるためにも、会場や材料のレイアウトを考え、お揃いのオリジナル名札も用意するなど雰囲気づくりも欠かさなかった。
 そして、入念にリハーサルを行い、当日を迎えた。
 ポスターやチラシ、アンケートもヴォランティアが作成したが、一段と子どもたちにも親しみやすい温かみのあるものになったと感じる(図1)。その甲斐もあって、空間と時間の制約から定員を各回8組という少人数としたが、申し込み状況も非常に良好であった。

親子小石川ミュージアムラボ2014夏!
 タイムスケジュールと合わせて当日の様子を順に振り返る。
 両日ともに集合時間は13時で、進行順序は、@館内巡り・ゲル解説A制作(前半、中間発表、後半)B展示・発表C小石川分館建物の解説、となっており、16時半を解散時刻とした。
 @館内巡り・ゲル解説では、15分弱という限られた時間で「未来の家」のヒントを探してもらえるよう館内を案内し、特に「移動できる家」の一例としてゲルに力点を置いた(図2)。
 館内巡りを終えると、早速Aの制作に入った。制作時間は、15分の中間発表を挟みつつ、前半と後半にそれぞれ40分と45分を配分した。中間発表を設けた理由は3つあり、まず発表に慣れてもらうため、次に子ども同士でアイデアを共有してもらうため、そしてヴォランティア・参加者がお互いに進捗状況を確認しあうためである。基本的には、親子の制作をヴォランティアがきめ細かくサポートをする形式を採った。とりわけ、後半の制作時間には、保護者にも子どもの作品のキャプションと土台の制作をお願いしたため、子どもとヴォランティアとのコミュニケーションが一層緊密になっていた。透明な球体を追求してゆく子、魚を捕るための装置各種を開発する子、家中に植物を茂らせてゆく子どもなど、ユニークな作品が出来上がっていった(図3)。
 こうして制作時間を終えると、次はBの展示・発表に移った。具体的にははじめに10分間の展示の時間を設け、小石川分館の中であれば、どこでも自由に作品を展示できることとした。わたしの「動く家」が一番いきいきできる場所は…。子どもたちは作品を携えて、勢いよく展示場所を探すこととなった。展示ケースの中だったり、ゲルの傍だったりと、子どもたちの個性がいきた展示が一面に広がる(図4)。続く50分間で館内を巡りながら、ヴォランティアによるインタビュー形式で子どもたち1人1人に制作物と選んだ展示場所について発表をしてもらった。その際には、ヴォランティアはもちろん他の参加者から質問や感想があがり、それに真剣に応えようとする子どもたちの姿が印象的であった。
 最後に、C小石川分館建物の解説を行った。航空写真や創建時の写真などを使い移築の沿革を示しながら、イベントのコンセプトそれ自体が小石川分館らしいものであると説明したのである。なお、作品は、参加者の手で小石川分館から新たな場所へ「移築」されていった。

ラボは終わらない
 今回の小石川ミュージアムラボでは、ごく限られた時間の中で「みる・つくる・展示する・発表する」という体験を1つのイベントに同居させた点で意欲的な試みであった。この試みは、保護者のアンケートに「単に制作の場ではなく、展示や説明をすることで、広がりのあるものになっていた」とあったように、受け入れられたように思われる。
 そして、2日間を通してはっきりと手応えを感じられたのは、親子イベントとしての企画全体を楽しんでもらえたことだ。何よりも、参加者の方々の熱意のおかげでイベントを成功裏に終えることができたのだと思う。
 また、ミュージアムラボ当日の模様や作品に関していえば、両日とも、小石川分館の展示を企画している松本文夫先生がその活動風景を写真に収めている。その一部を小石川分館に展示しており、子どもたちがつくりだしたアーキテクチャを確認することができる。写真を通してみると、あらためて当日限定で展示に加えられた子どもたちの「未来の家」は、普段の小石川分館の展示の印象を変えてしまうような非常にパワフルなものだったことに気づかされる。

これからの挑戦へ
 最後に、小石川分館と学生ヴォランティアの可能性について一言述べたい。
 小石川分館の課題の1つに、認知度の低さが挙がる。今回のイベントの参加者でも、存在自体知らなかったという方が多数であった。リニューアル・オープン後、まもなく1年を迎えようとしているが、1人でも多くの方に今の小石川分館を知り、ファンになっていただければと願っている。
 そのためにも、学生ヴォランティアの主体的な活動は不可欠といえる。通常の展示解説活動だけではなく、今回のようなイベントはヴォランティア間の一体感を醸成する点でも重要だ。
 今後も「小石川ミュージアムラボ」は継続してゆく。これからの小石川分館にも是非期待してほしい。

小石川ミュージアムラボ実行委員会
 都甲友理絵・坂井景・太田萌子・奥山和・利根川薫・垣中健志・長谷部美紀・大竹洋平・久祢田喜久・碓井麻央・佐藤健太郎・杉本渚・松永優子・青木太一・佐藤美景(小石川分館学生ヴォランティア、登録順)

ミュージアムラボアドヴァイザー
 松本文夫・鶴見英成・阿部聡子・門馬英美(本館教職員)

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図1 ポスター(部分).小石川分館の展示標本をアレンジした
イラストが楽しい/制作:奥山和.

図2 モンゴルの移動式住居ゲルの解説中.

図3 「未来の家」制作中.

図4 台湾ヤミ族のカヌーの横に展示された作品.