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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime20Number2



小石川分館
仮面から覗くアーキテクトニカ
―親子小石川ミュージアムラボ2015夏「カメン×ヘンシン→テンジヒン!」開催報告

米村美紀(小石川分館学生ヴォランティア/工学系研究科建築学専攻修士課程1年)

 小石川ミュージアムラボは、学生ヴォランティアによるイベント企画を通じて,小石川分館の活動の充実や来館者との活発な交流をはかることを目的とし、昨年より始まった活動である。2年目となる本年は、8月22日、23日に、「カメン×ヘンシン→テンジヒン!――変身しよう、みんなの博物館」と題し、小学生とその保護者を対象としたワークショップを開催した。参加者が思い思いの仮面を制作し、自身が小石川分館の展示品になるインスタレーションを行うという内容で、2日間で計12組24名の方の参加があった。

「仮面×変身」
 昨年のテーマは、小石川分館の常設展である『建築博物誌/アーキテクトニカ』にちなんで「移動する家」を作るというものだったが、本年は新たに仮面をテーマとした。制作物を展示して発表・解説をする流れは前年から踏襲し、展示を通じて小石川分館の建築(旧東京医学校本館)と内部空間の面白さも感じてほしいという期待も込めた。
 小石川分館では、アフリカの仮面の守護霊マスク、妊婦マスク(いずれもコートジボワール)と、考古学者の小田静夫氏コレクションのうちフィジーの仮面の3点の仮面を常設展示している。ここから着想を得て仮面をテーマとし、仮面について考察を重ねていった。
 仮面といえば祭りや仮面舞踏会などを連想させるが、これらの共通点や仮面の歴史を考える中で、「自らが異なるモノに変身する」、「普段は目に見えない特殊な役割や能力を授かる」という機能や力に思い至った。次に、常設展「アーキテクトニカ」との共通項を考えるため、館内すべての展示室で仮面に通ずる話題を探した。顔、変身、異界なるモノ、展示空間をキーワードとし、その意味やストーリーを理解してもらうためのギャラリートークを構成した。
 今回のミュージアムラボでは、仮面を身につけ展示品に変身することを通して、周囲と自身との関係性―変身することで与えられる機能、変身したときの感覚、変身した人を見ることで想起されるもの―について考えてもらうことを目標とした。
  そして、子ども達に分かりやすく、保護者が聞いても面白い内容を目指し、試作会や台本の作成、リハーサルを行った。

当日の様子」
 イベントは@ギャラリートークA制作B展示・発表の3部で構成した。
@ギャラリートーク――約20分間で、身体空間の部屋を中心に、各展示室で今回のテーマに関連する話題に触れた。その一部を紹介する。
 「建築模型」については、建築の正面を指すファサードが顔に由来することに触れ、建築の顔という見方を紹介した。また、「東京大学建築」では、小石川分館が移築やデザイン変更、用途の変化を繰り返して現在に至ることから、変身と役割について触れた。「自然形態」では標本のもつ様々な形や質感について触れ、「身体空間(ゲル)」で展開しているモンゴルの移動式住居のゲルについては、平面的な要素から立体的な建築が構成されることを変身になぞらえた。
 「身体空間(カヌー)」では時間を割いて詳しい解説を行った。収蔵品である仮面3点のうち特にアフリカの仮面について、民族ごとに仮面制作の伝統があること、守護霊マスクは何種もの獣を組み合わせたデザインをしており、一つの木材から彫られていることなどを説明した(図1)。また、異界なるモノの表現として様々な獣を組み合わせたペルーのクントゥル・ワシ遺跡の蛇目角目ジャガーの石彫を紹介した。
 また、復路では展示空間についてのイメージ喚起のため、いくつかの展示室で仮面をつけたスタッフが現れる演出を施した。途中に参加者の質問もあり、打ち解けた様子で進行していった。
A制作――「変身」という広いテーマ設定であることから、制作の自由度を維持しながらもイベントとしての一体感を持たせたいと考えた。土台となる材料は張り子、スチレンボード、片面段ボールの3種とし、それぞれの特徴(加工性、素材感)を考えて選ぶ形とした。また、保護者は子どもと材料をシェアして仮面を制作するというルールを設け、全員が同じ素材やストーリーを共有する体験を持てるようにと考えた。
 90分の制作時間では、参加者が思い思いの材料を選んで制作していった。保護者やスタッフに教わりながら初めてカッターを使ったり、限られた道具や材料の中で試行錯誤したりと始終活気ある雰囲気だった(図2)。また、発表に慣れること、互いの作品にも興味を持ってもらうことを目的として中間発表を行った。
B展示・発表――展示室やテラスなど、館内で好きな場所を選び、「ヘーンシン!」の掛け声でポーズをとった後にインタビュー形式で作品解説を行った。変身したモノの説明や展示場所を選んだ理由の他、会場から仮面のタイトルや保護者の作品との関係など、仮面の持つストーリーに関する質問も出た。テーマ、作り方、展示場所の設定やポーズなど、いずれの仮面も参加者の思いが窺えるインスタレーションとなり、子どもの仮面と、それに寄り添う保護者の仮面とが、一対の作品として小石川分館の展示に加わった(図3)。

身体空間のアーキテクチャ再考」
 本企画で一貫して考え続けたのは、建築ミュージアムである小石川分館で開催する意味であった。他でもない「小石川分館らしさ」を問うことで、単なる工作教室に終わらないワークショップにできると考えたからだ。
 当館には建築模型の展示の他に、「身体空間」という展示コーナーがあり、ここでは3点の仮面に加えて、石斧、石彫の拓本、台湾ヤミ族のカヌーなど、人々の生活の中で身体と触れ合う様々なモノを展示している。今回テーマとして選んだ仮面は「身体空間」の一部であり、参加者自身が展示品となるインスタレーションも、「身体空間」の延長線上にあると言える。この「身体空間」であるが、当館に来館頂くと、この展示コーナーと建築ミュージアムの間には飛躍があるように感じられるかもしれない。ヴォランティアとして活動している私達にとっても、これらの展示の構成や関係には簡単に理解できない面がある。その一方で、この展示構成こそが小石川分館のアイデンティティであり、今回のワークショップの着地点になるだろうと考えた。結びの挨拶では、「建築(アーキテクチャ)」という言葉を建物だけでなく、広く自然の中の形や生活道具の個性的な形のあり方も指す言葉であると捉え直し、身の回りのモノをアーキテクチャの概念を以て再認識することへの期待を述べた。
 今回のワークショップで「身体空間」を取り上げたスタート地点は、子ども達にとって親しみやすいものを題材に選ぶことだったが、それに加えて「身体空間」の展示について、企画者である私達自身が理解を深める契機となった。建築と仮面は、構成・デザインによって意味や力が付与され、その内部や周囲の人の暮らしに影響を与える点において共通していると言えるだろう。人々の生活をより豊かにするための願いや機能が込められ、それを実現するための形態が与えられる点は、生活を形作るあらゆるモノに当てはまるのではないだろうか。今回の活動を通して、子ども達がアーキテクチャとそこに込められた意味の関係に触れ、身の周りのモノへの興味を深めていってくれればと考えている。

 参加した子どもからは、初めての体験で面白かったという声、保護者からは、子どもと同じ作業をすることが新鮮で良かったとの声を多く頂き、充実したイベントとなったことを実感できた。また私達にとっても、子どもとの交流を通じて、枠にとらわれない発想に触れ、小石川分館の展示を再認識できた貴重な経験であった。今後、幅広い年代の方を対象に継続的に開催していきたいと考えている。

小石川ミュージアムラボ実行委員会 奥山和・利根川薫・垣中健志・杉本渚・松永優子・青木太一・中谷和生・小新大・長澤文彩・米村美紀・巖名志穗・吉田敦則・小山美里 (以上、小石川分館学生ヴォランティア、登録順)

ミュージアムラボアドヴァイザー 鶴見英成・松本文夫・阿部聡子・小林優香(本館教職員)

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図1 仮面について解説.


図2 親子で仮面を制作中.


図3 カヌーを背景に親子で変身!