東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime21Number1



本館常設展
本館リニュアルにおける「展示型収蔵」の試み

洪 恒夫(本館特任教授/展示デザイン)

 「展示型収蔵」とは聞きなれない言葉ではなかろうか。それもそのはず、これは今回の当館リニュアルにおいて発案された言葉であり、概念なのである。
 私が取り組むミュージアムテクノロジー研究とは大学博物館の中にあって、展示の可能性やミュージアムの可能性等を追求するものであり、これまで多くの実践型研究を推進してきた。
 展示を設えて来館を待つというスタイルではなく、展示をコンパクトなサイズに仕立てて出向きミュージアム活動を繰り広げるという「モバイルミュージアム」を皮切りに、これを小学校教室のサイズに拡大し展示展開する「スクールモバイルミュージアム」、また、ミュージアムの魅力は一般の人が入ることができる展示室などの公開スペース(フロントヤード)と収蔵庫や学芸・研究活動が行われている非公開スペース(バックヤード)との中間領域にあるのではないか、という仮説に基づきそのスタイルを追求した「ミドルヤード」研究などである。これらは力を持ちながらも発揮しきれていないミュージアムの資源価値を最大限活用する試みであり、ミュージアムを活性化するという課題解決のための施策である。
 昨今、ミュージアムの現場が抱える問題の一つとして収蔵スペースの不足がある。事業を推進する上で標本などの収蔵品は日々増えていくものであり、廃棄しない限り収蔵スペースは不足していく。当館も例外ではなく活動を続ける中、実に400万点に及ぶ標本を所有するに至った。収蔵標本は研究のための試資料であり、開催する特別展等の源泉にもなってきたが、収蔵スペースは自館では賄いきれず外にスペースを借りるほか他の部屋や廊下までもこれに当てるなどして対応してきた。
 2013年に当館は鞄本郵便の事業である東京丸の内の旧東京中央郵便局のリノベーションで作られたJPタワー内のインターメディアテクというミュージアム事業に協業し、東大標本を常設的に展示するフロアを得ることができた。これまで収集してきた多くの標本を常設展示として公開できるようになったと同時に学外ではあるが本館のフロントヤードを手に入れる結果となった。今回のリニュアルではこうした背景も起因しこれまで展示公開の場として利用してきた床の多くを収蔵スペースへと変えることとした。とはいえ、学内にあって社会との接点の創出が使命である大学博物館が展示公開活動を行わないわけにはいかない。こうしたことから、収蔵スペースでありながら展示の機能を持たせる新たなミュージアムのかたちを試行することとしたのである。
 ミドルヤードの発想にも通じるが、バックヤードの収蔵庫をみることは魅力的である。このことから「収蔵型展示」と呼ばれるものがすでに幾つかのミュージアムでも試行されてきた。しかしながらこれは収蔵の一部を垣間見せるものであり、あくまでもフロントヤードで行われる“展示”である。そのような中、今回の「展示型収蔵」である。この軸足はあくまでも“収蔵”であり、そこに展示の要素を持たせるのである。いわばミドルヤードよりも更にバックヤードに近づけたものである。
 今回、室の大半において収蔵のための什器を設え、その一部に展示の要素を組み込むことを行った(図1)。什器におさめられない動物などの大型標本はバックヤードさながらにオープンスタイルで見せている。ハード的特徴はこのようなものであるが、ソフト的には「UMUTオープンラボ」というテーマ・コンセプトを掲げ、収蔵標本の意味にスポットを当てることで学術研究活動の真髄と研究における標本の役割を訴求することを狙いとした。また研究室の一部を持ち込んでガラス窓や壁を通して研究の様子を見せることにも挑んだ。標本や設備に囲まれながら知の解明のために研究する現場そのものを演出ではなく本物として見せる場を創り上げたのである。
 エントランス部分にはガラス張りで中が見える“標本の蔵”を配置し、知の探究の源泉としての標本を象徴的訴求することとした(図2、3)。フロアは研究領域ごとのゾーン構成とした(図4)。古生物のパートは研究室の一部を持ち込み、ガラスを通して研究の様子を見せながら関連の標本を展示した。また、1階の一番奥でも年代測定の研究と先端技術のAMS装置をガラス越しに見せつつ基本的な研究の流れを解説する展示を配置した(図5)。2階も常設展示として設え、文化史を中心とした標本を展示する傍らでカウンターを使った研究作業も稼働させることとした(図6)。動物のパートは剥製と骨標本を中心に展示し、標本を作製する過程も想起させるような研究現場のイメージを表現した。そして今回、コア展示として30Mにも及ぶ一直線の展示「標本回廊」を配置し、太陽系から人類までの自然史、さらにはその先の文化史までの標本を一気通貫に展示することで研究領域の多様性とそれらの関わりをイメージさせることを狙った。
 本リニュアルでは「展示型収蔵」というコンセプトに基づき、研究の現場そのものふれながら知を探究することのダイナミズムを感じ取っていただけることを期待している。その一方で、フロントヤードとバックヤードの境界をまたぎ、収蔵に展示の要素を持ち込む試みが収蔵スペース不足の課題解決のプロトタイプとなることを願っている。

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図1 イメージスケッチ.


図2 イメージスケッチ.


図3 スタディモデル.



図4 全体ゾーニング.


図5 イメージスケッチ.



図6 イメージスケッチ.