IMT特別公開展示
梶田隆章先生ノーベル賞受賞を記念した特別公開と講演会
松本文夫(本館特任教授/建築学)
宮本英昭(本館准教授/固体惑星科学)
関岡裕之(本館特任准教授/博物館デザイン)
2015年のノーベル物理学賞を受賞した東京大学宇宙線研究所長の梶田隆章先生の功績を広く伝えるため、インターメディアテクで特別公開『梶田隆章先生ノーベル賞受賞』(2016年3月8日?5月8日)が開催され、あわせて、JPタワーホール&カンファレンスで『梶田隆章先生ノーベル賞受賞記念講演会』(同年3月30日)が実施された。
小柴昌俊先生(2002年ノーベル物理学賞受賞)のもとでニュートリノの研究を行った梶田先生は、素粒子観測施設カミオカンデおよびスーパーカミオカンデにおける観測を通して、それまで質量ゼロとされてきたニュートリノに質量があることを世界で初めて明らかにした。これは物質の根源と宇宙の進化の解明につながる歴史的な大発見となった。
特別公開はインターメディアテク2階のパンテオン(ホワイエ)で開催された。研究成果の核心を示す資料と、授与されたメダル等を集約したコンパクトな展示である(図1)。会場中央のパネルには、ノーベル賞の受賞理由である「ニュートリノが質量をもつことを示すニュートリノ振動の発見」に関わる重要資料が掲出された。それは1998年のニュートリノ国際会議で梶田先生が発表した「大気ニュートリノ振動の解析結果」の資料から選ばれた12枚のOHPフィルムである。この中の解析結果をまとめたグラフ(図2)には、大気ニュートリノがスーパーカミオカンデの中の水分子と衝突した際に放出される電子ニュートリノとミュー・ニュートリノの方向分布が示されている。電子ニュートリノ(e)の場合は上下対称の分布となっているのに対し、ミュー・ニュートリノ(μ)の場合は上向きの事象が下向きの事象の約半分しか観測されなかったという。地球の裏側から上向きに飛んでくるニュートリノが有意に少ない結果が得られ、これは大気ニュートリノがニュートリノ振動をおこしている証拠となった。
パネルの両側に立つ三角柱のガラスケースには、ノーベル賞のメダル(公式レプリカ)および賞状(レプリカ)が展示された。メダルにはノーベルと梶田先生の名前が刻まれており、両面が見えるように特製支持具に立てて設置された。賞状は画家とカリグラファーの共作によるもので、左右見開きで展示された。
ノーベル賞受賞記念講演会には、招待者、一般参加者、企業関係者、卒業生、在学生ら大勢の聴講者が参加した。最初に相原博昭副学長から梶田先生のプロフィールの紹介があり、続いて梶田先生が「ニュートリノの小さい質量」と題して講演を行った(図3)。梶田先生は「ニュートリノとは何か」という出発点から話を切り出し、カミオカンデおよびスーパーカミオカンデの実験を通してニュートリノ振動の発見にいたるまでの研究プロセスを説明された。ミュー・ニュートリノ事象の数が予想よりずっと少なかった観測結果について、当初は何かの間違いと考えて検証し直した。しかし我々が知らない現象が起きている可能性に思い至り、これが研究の大きな転機になったという。1996年から始まったスーパーカミオカンデの実験では、検出器の体積と取得データの数が格段に増えたことにより、ニュートリノの方向分布の解析が可能になり、これによってニュートリノ振動の現象を確かめることができた。将来の研究として、「物質があって反物質がない」という宇宙の大きな謎を解明するプロジェクトをあげ、「ニュートリノの小さい質量」がそれを理解する鍵になることを示唆された。最後に、基礎科学研究への若い方々の積極的な参加を呼びかけ、満場の拍手を得て講演会は終了した。会場で配布されたパンフレットに記載された「ニュートリノは極小の素粒子の世界と極大の宇宙を結ぶ掛け橋」という梶田先生のメッセージの通り、内容のスケールが大きく、知的好奇心を刺激する講演会であった。
講演会の当日はインターメディアテクの開館時間を20時まで延長し、講演会に引き続いて特別公開の会場で記念イベントが開催された。保立和夫理事・副学長、牛尾則文文部科学省研究振興局学術機関課長、梶田隆章先生の三方にご挨拶を頂いた。
特別公開『梶田隆章先生ノーベル賞受賞』
会期:2016年3月8日―5月8日
会場:インターメディアテク
主催:東京大学総合研究博物館
共催:東京大学宇宙線研究所
梶田隆章先生ノーベル賞受賞記念講演会
実施日:2016年3月30日
会場:JPタワーホール&カンファレンス
主催:東京大学+日本郵便株式会社
共催:東京大学宇宙線研究所
協賛:株式会社コングレ
株式会社丹青社
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