実験展示
大学博物館と現代美術
菊池敏正(本館インターメディアテク寄付
研究部門特任助教/文化財保存学)
大学博物館には多くの学術標本が収蔵されており、多様な領域を横断的に展示公開している。展示物となる標本は、自然科学系においては主に種別や形態を表す「モノ」である。その他、現象の状態を表現した模型標本等もある。「モノ」として提示されることにより、言語のみでは伝達が難しい細部まで理解を深めることも可能になる。さらには、「モノ」として掲示された標本は、専門的な知識に制限されることなく、様々な領域と比較されることにより、新たな領域へと可能性を繋ぐ。これらは収集・分類・研究という過程を経て公開されるものでもある。これらの学術標本と、現代における美術作品の制作過程には類似する部分が多くある。近代以降の美術作品の多くは、知覚に対する実験的な取り組みの結果であり、新しい表現方法への実験結果でもある。過去の作例を参考にしつつ、新たな表現を模索する点は、学術研究と同様の行程とも考えられる。また、時代背景やテクノロジーの変化に大きく影響を受ける点も類似する。しかし、先行研究とも言うべき過去の作品群は、全てが同一線状に並ぶことはなく、地域においても多様に変化する点は非常に複雑である。芸術という大きな枠組みの中、美術教育と美術が混同されがちな現代において、歴史的、技術的な背景を考慮しつつ、作品制作を通じて考えを具現化し、展示を通じて検証するという一連の行為は、意義のある行為であると言える。このような現代美術作品を、学術標本を展示する大学博物館において、実験的に展示公開することにより、現代美術と学術の相互作用を追求することが可能になると考える。
什器の一つである。貴重な資料を保存する目的から、非常に重厚な構造で作られており、現代に伝えられた重要な学術遺産とも言える。インターメディアテクでは、この歴史的な什器と現代美術を組み合わせた実験展示「パースペクティヴ」を企画している。キャビネットが制作された百年前の時代背景は、ヨーロッパの前衛芸術が最も盛り上がりを見せた時期と重なる。本展は、前衛芸術から影響を受けた現代美術作家の作品が、歴史性をもつ什器に格納されつつ、等間隔に展開されることで、作品の輪郭を一層引き立たせ、現代美術における共時性を提示する試みである。現代美術における共時的な地形を提示することにより、今後の美術に対する展望(パースペクティヴ)へと繋がる可能性も併せもつ。展示期間中には、出品作家と東京大学総合研究博物館と関係する研究者によるディスカッション・イベントも予定している。近現代美術が空間、素材、場、概念など様々な対象と作品の関係性を追求してきたように、作品制作と学術研究のアプローチについて、着想から考察までを比較検証し、さらなる関係性と可能性を模索する。
現代美術実験展示『パースペクティヴ(1)』
出品作家 今井紫緒/今井俊介/今津景/菊池敏正/高木大地/冨井大裕/藤原彩人
会 期 2017年1月24日(火)―3月26日(日)
会 場 インターメディアテク3階「バルコニー(HOMAGE)」
主 催 東京大学総合研究博物館インターメディアテク研究部門
ディスカッション『パースペクティヴ(1)』
3月3日(金)「学術研究と芸術表現の比較1(立体作品)」
松原始(東京大学総合研究博物館インターメディアテク研究部門特任准教授/動物行動学)
今井紫緒/冨井大裕/藤原彩人/菊池敏正
3月10日(金)「学術研究と芸術表現の比較2(絵画作品)」
黒木真理(東京大学大学院農学生命科学研究科/助教/水圏生態学)
今井俊介/今津景/木大地/菊池敏正
時 間 18:00― (17:45開場、19:30終了予定)
会 場 インターメディアテク2階「レクチャーシアター(ACADEMIA)」
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