スクール・モバイルミュージアム
火星探査
宮本英昭(本館・工学系研究科教授/固体惑星科学)
洪 恒夫(本館特任教授/展示デザイン)
新原隆史(本館特任助教/惑星物質科学)
洪 鵬(工学系研究科特任研究員/惑星大気科学)
逸見良道(工学系研究科学術支援専門職員/惑星地質学)
火星ではいま、8機の探査機が同時に探査を行っている。火星に関する新たな知見を猛烈な勢いで獲得し続けているこれらの探査機は、具体的に火星のどこで、どのようなデータを得ているのだろうか。これを体感できるような展覧会を目指した。
会場の12m×8mの床一面に、火星探査機によって得られた地表面の画像を敷き詰めた(図1)。来館者が特殊なメガネをかけて床を見下ろすと、地表の凹凸が立体的に見える。そのため会場内を歩きまわると、あたかも飛行機に乗りながら火星上空を飛行しているような気分が味わえる(図2)。これは小学校低学年の子供はもちろん、幼児であっても十分に楽しめるアミューズメント性がある。
高学年の児童や生徒、大人向けには、もう少し奥深い仕掛けがある。というのも、床面の画像で示している領域は、実はNASAの火星探査ローバー「キュリオシティ」がいままさに探査を行っている場所だからだ。会場の壁面には、このローバーが撮影した地表面のパノラマ写真が示されているが、そこに写っている山の配置や地表面の特徴などをつぶさに観察すれば、その写真を撮影した場所が、床面のどこに位置しているかを読み解くことができる。さらにこのローバーの軌跡を正確に追うこともできるし、いったい火星上のどの場所を見ているのか、会場に掲示された縮尺の異なる画像や地形図を順に調べていくことで理解することもできる。これらは全てクイズ形式で出題されていて、予備知識が全く無くても順を追って知ることができるように設計されている。もっともそうはいっても、実際にすべてのクイズに答えようとすると、かなりの時間が必要になるためほとんどの来館者は、そこまで熱心に読み解こうと思わないだろう。しかしそうであっても、火星で実際探査を行っている研究者の作業の一部を体験していることになるため、漠然とデータを示す以上の教育効果が期待できると考えている。また会場ではもちろん、火星科学の最先端についても解説している。
もう一つの目玉は、私たちが立案を担ったJAXAの新たな探査計画「火星衛星サンプルリターン計画(MMX)」の紹介である。JAXA内での予算化を受け、現在多くの研究者が協力しあいながら実作業を粛々と進めているこの計画の全貌を、現時点で最も詳細に一般へと公開している。平易な表現を用いてはいるが、専門的な解説も含み、実際には極めて高度な先端科学の紹介となっている。
このスクール・モバイルミュージアム「火星探査」展は、文京区の支援を受け総合研究博物館が実施した。コンパクトな「教室サイズ」ではあるが、小さな子供も楽しめるアミューズメント性を持ちつつも、宇宙開発の最先端が凝縮された展覧会となった。
展示期間:平成28年12月17日(土)〜平成29年3月31日(金)
休 館 日:日曜・祝日など 開館時間:9:00-17:00 入 館 料:無料
TEL:03-5800-2591
場所:東京都文京区湯島4-7-10 文京区教育センター2階大学連携事業室
主催:東京大学総合研究博物館
共催:文京区教育センター
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