東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime21Number3



マクロ先端研究発信グループ共同活動
ミクロにせまるハンズオン・ギャラリー

佐野勝宏(本館特任助教/先史考古学)
鶴見英成(本館助教/アンデス考古学・文化人類学)
小敬寛(本館特任助教/近東考古学)
尾嵜大真(本館特任研究員/年代学)
佐々木智彦(本館特任研究員/形質人類学)
久保 泰(本館特任助教/古生物学)
新原隆史(本館特任助教/隕石学)
小薮大輔(本館特任助教/動物解剖学・生物学)
黒木真理(東京大学大学院農学生命科学研究科 助教/水圏生態学)
矢後勝也(本館助教/昆虫自然史学)

 東京大学総合研究博物館マクロ先端研究発信グループは、博物館に収蔵されている貴重な学術標本が先端研究に活かされる過程を体験してもらうため、平成22年度より継続的にハンズオン・ギャラリーを実施してきた。 第7回目となる今回は、「ミクロ」をテーマとした。博物館に収蔵された標本は、大切に保管されるだけでなく、標本に隠された新たな情報を最大限に引き出すため、最先端の機器を利用した多角的分析が行われている。分析はしばしば肉眼では見ることができない微細な領域におよび、様々な手法を用いて新たな学術知が生み出される。本ハンズオン・ギャラリーでは、日常生活では目にすることのできないミクロの世界を覗き込み、先端研究を体感してもらうための様々なイベントを実施した(図1)。

Hands On 7
 今回のハンズオン・ギャラリーは、ミニ講演、ギャラリー、AMSツアーの3つのイベントで構成された。
ミニ講演とギャラリー
 ミニ講演とギャラリーは、相互補完的関係にある。ミニ講演では、ギャラリーに並べられた標本が、いかに先端研究へと昇華されていくかが解説された。15分の短い講演ではあるが、考古学、形質人類学、古生物学、動物解剖学、水圏生態学、昆虫自然学、隕石学といった多岐にわたる研究内容がたった一日で次々と紹介された。
 ギャラリーでは、各担当者の専門分野の標本が並べられ、それらを手に取って観察することができる。百聞は一見にしかずというが、博物館で行われる研究は、手にとって観察することで初めて理解出来ることが実に多い。今回は、標本を手に取るだけでなく、更にそれを顕微鏡で観察する行為が加わった。博物館で日々使われている様々な顕微鏡がずらりと並び、上記各分野の多様な標本のミクロ世界が覗き込まれた。
ミニ講演・ギャラリーのタイトルは、以下の通りである。
ギャラリー1 南米アンデスの遺跡分布―大陸の視点から1点の遺物へせまる(鶴見英成)
ギャラリー2 狩猟具の投射方法を探る―石器に残されたミクロな手がかり(佐野勝宏)(図2)
ギャラリー3 粘土の混ぜもの―混和材が語る古代の土器づくり(小敬寛)
ギャラリー4 古代人の年齢を探る(佐々木智彦)
ギャラリー5 ミクロな傷跡から歯の働きを探る(久保 泰)(図2)
ギャラリー6 隕石から読み解く初期太陽系の物質進化(新原隆史)
ギャラリー7 動物の体のでき方を観察する(小薮大輔)(図3)
ギャラリー8 海で生きぬくミクロな仔魚の工夫(黒木真理)
ギャラリー9 はねやお尻からわかる虫の違い(矢後勝也)
AMSツアー:年代を測る加速器質量分析計
 2016年5月に本館が「UMUTオープンラボ」としてリニューアルオープンして以来、コンパクトAMS(加速器質量分析計)は、研究現場スペースを公開する本館のコンセプトを体現する中心的役割の一つを担っている。
 今回のハンズオン・ギャラリーでは、普段は入ることが出来ないAMSが設置されたスペースに参加者を招き、その仕組みを紹介するAMSツアーを午前・午後の二回に分けて行った(図4)。
 AMSは、極めて少ない量の同位体を数えるための装置である。資料の中に残っている、決まった速度で減少する放射性同位体・炭素14を数えることで、資料がどのくらい古いかを知ることができる。AMSの実物を間近に見ながら、その仕組みを解説することで、様々な資料の年代が決定されていく過程を体感してもらった。

イベントを終えて
 今回のハンズオン・ギャラリーは、1日だけの開催であったが、参加者数は198名にのぼった。回答のあったアンケートに基づくと、年齢別では、10代未満6人、10代3人、20代5人、30代3人、40代16人、50代8人、60代9人、70代以上3人である。本館の他の講演会と比べると、20代以下の参加者が多い。また、参加者の半分以上(58%)は、今回が初めての参加である。次世代の科学を担う若年層の参加を狙った本企画の広報戦略に、一定の効果があったと評価出来る。
 ハンズオン・ギャラリーは、若年層をターゲットの中心に据えるが、先端研究の発信というマクロ先端研究発信グループの目的に変わりはない。毎回、子どもにもわかる内容とカッティングエッジ研究の発信の両立に頭を悩ませる。しかしながら、先端研究をわかりやすく伝えることに成功した先に、参加者の大きな充足感と科学に対する関心の向上が待っていることも、我々はこれまでの活動を通じて確信している。
  今回は、「ミクロ」という新しいテーマを選び、わかりやすく伝えることが出来たか心配された。しかし、蓋を開けてみれば、小学生以下の子どもの71%、中学生以上の参加者の96%から、「とてもわかりやすかった」あるいは「まあまあわかりやすかった」という回答を得た。そして、「とても楽しかった」と回答した参加者は、小学生以下の71%、中学生以上の78%であった。また、小学生向けの「またやってみたいですか?」という質問には、86%が「とてもやってみたい」と答え、中学生以上向けの「自然や科学への興味が高まりましたか?」という質問には、85%が「更に興味を持った」と回答した。今回も、両立の責務を果たせたのではないかと思う。
  ハンズオン・ギャラリーの活動は、博物館の若手研究者の増加に伴い、その内容が着実に多様化している。多彩な研究成果をたった一日で聴くことが出来る点は、本イベントの魅力の一つである。我々自身も、同僚の研究内容を知る良い機会とっており、刺激を受けることが多い。異分野連携で成り立つ本イベントの準備・運営は、個々人の研究活動にもポジティブに働き、それが最終的には博物館運営にとってもポジティブ・フィードバックとして機能しているように思う。若手研究者の入れ替わりが一定数あるのは本館も例外ではないが、個人と館双方の正の連鎖構造が今後も続くことを期待する。
 最後に、ハンズオン・ギャラリー開催に当たり、多大なるご協力を頂いた本館ボランティアの皆様に心よりお礼申し上げます。

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図1 ハンズオン・ギャラリー会場入口.

図2 石器とニホンジカ標本のギャラリーの様子.デジタル
マイクロスコープで,ニホンジカの歯に残されたマイクロ
ウェアを観察する様子.

図3 哺乳動物のブースでの様子.様々な哺乳類の胎子の
透明化染色標本を顕微鏡で来場者に観察してもらった. こ
こではアリザリンレッドによってホシバナモグラ Condylura
cristataの胎子の骨格および「花状」に広がった鼻先の
触手が確認できる.

図4 AMSの仕組みを解説する様子.