IMT演劇創作プロジェクト
「Play IMT」の展開
―展示空間での実験パフォーマンスとポストプロダクション
寺田鮎美(本館インターメディアテク寄付研究部門特任准教授/文化政策・博物館論)
2014年10月から開始した演劇創作プロジェクト「Play IMT」は、これまで一貫して、着想段階から演劇創作のプロセスにインターメディアテクのコレクションや活動、集まる人々などを有機的に取り込むことで、いかなる演劇表現をミュージアム空間内に結晶化させられるのかを追求してきた。座談会や実験パフォーマンスのイベントを積み重ねていくなか、本プロジェクトは2016年に大きな展開を迎えたと言える。
その一つが、2016年4月に開催した演劇パフォーマンス『Play IMT (4) プレイグラウンド』である。本プロジェクトがキーワードに掲げる「Play」がもつ複数の意味のうち「遊ぶ」に着目し、初めてインターメディアテクの展示空間全体を用いたパフォーマンスが実現した。
特に今回は、俳優というプレイヤーの可能性を最大限に引き出すために、俳優自身の発想を元に、彼らがインターメディアテクでのみ創出することができる身体表現の実験に焦点を当てた。約4ヶ月間に亘る準備期間中、言葉としてはやや矛盾するが、インターメディアテクの展示物や空間と真剣に向き合うことで、インターメディアテクという「プレイグラウンド」でどこまで遊ぶことができるかという可能性を探求した。
パフォーマンスは、11人の俳優が「黒い人」と「白い人」に分かれ、インターメディアテク2階と3階で同時にスタートした。続いて、異なる階層をつなぐ階段で交錯し、階層を変えてそれぞれがまた同時にパフォーマンスを行うと、最後に再び階段で遭遇する場面となり、ここでフィナーレを迎える構成となった(図1)。このフィナーレでは、観覧者が俳優から受け取った紙を3階のバルコニーから降らせるという参加型の仕掛けを試みた。
この後、新たな取り組みとして挑戦したのが、パフォーマンスをもとにしたポストプロダクションである。
上述のように、「Play IMT (4)」のパフォーマンスは、俳優の身体感覚から生まれるものから全体を作り上げていくプロセスを辿ったため、事前に書かれた「脚本」は存在しなかった。また、異なる階層で同時にパフォーマンスを展開させたため、観覧者はすべてをその場で見ることができない構成となっていた。しかし、パフォーマンスは「ストーリー」と呼ぶことができるものを確かに内包していた。そこで、その文学的要素を改めて示すために、一つの解釈としてパフォーマンスの場面に区切りをつけ、情景名を付し、内容を綴ったのが「劇的回想録断片」のテキストである。
そのテキストとパフォーマンスの記録写真を組み合わせ、一つめのポストプロダクションとして、ウェブカタログ『Play IMT (4) −プレイグラウンド』を編集した。このカタログは日英二つのヴァージョンとし、本プロジェクトの発信力を強化するために、ウェブで無料公開することにした。
もう一つのポストプロダクションは、演劇映像インスタレーション『Play IMT (4+)−プレイバック』である。2016年12月に実施した本イベントでは、「Play IMT (4)」のパフォーマンス記録映像を用い、通時的な記録映像の上映会ではなく、展示空間の3箇所に映像を配置し、観覧者にそれらを回遊しながら見てもらうものとした。それによって、パフォーマンスが作り出していた空間性のエッセンスを「再生(プレイバック)」することを意図した。
パフォーマンスの展開した場所を大きく区切ると、2階、3階、階段となる。そこで、それぞれに「地」「天」「階段」と名づけ、各5分程度の三つの映像を編集した。映像内では、場面転換にウェブカタログの「劇的回想録断片」と同じ情景名を挿入した。
このように、これら二つのポストプロダクションは、独立しても成立するが、互いを関連づけて観覧者に見てもらうことを初めから意図していた。空間性を追体験するインスタレーションを鑑賞する際に、ウェブカタログを手元のスマートフォンやタブレットで閲覧することで、ストーリーを知りたい観覧者の助けになる。その逆として、ウェブカタログでストーリーを事前に味わった観覧者が、実際のパフォーマンスが行われた場所を訪れて、今度は空間性を感じることができる企画とした。
ライブ性の強い演劇を写真や動画として記録した場合、その映像は演劇そのものを完全には再現し得ないことから、鑑賞用とならずに埋もれてしまうことも少なくない。しかし、今回の一連の試みは、サイトスペシフィックなパフォーマンスをインターメディアテクの展示空間全体を用いて行うことが実現したのに加え、それを一過性のイベントとしてしまうのでなく、ポストプロダクションとして演劇の記録映像を「デザイン資源」として活用し、「ミュージアム×演劇」の次なる創造活動に還元するものとなった。
本プロジェクトは現在、次のパフォーマンス企画の実現に向けて、さらなる可能性を模索しているところである。引き続き、ご注目いただければ幸いである。
最後に、コラボレーターである劇団世amIメンバーをはじめ、出演者および協力者の皆様に対し、ここに改めて感謝申し上げる。
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