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IMT演劇創作プロジェクト
インビトウィーン・ワールド
――演劇×ミュージアムの実験「Play IMT」の集大成
寺田鮎美
(本館特任准教授/文化政策・博物館論)
インターメディアテクにおける演劇創作プロジェクト「Play IMT」は、劇団世amI(せあみ)をコラボレーターに迎え、2014年にプロジェクトの可能性を考える公開座談会からスタートし、2015年と2016年には展示空間での実験パフォーマンスを積み重ねてきた。4年目を迎えた2017年は、さらに「演劇×ミュージアムの実験」という構想を発展させるべく、第7弾イベントとなる演劇パフォーマンス『Play IMT (7)−インビトウィーン・ワールド』を11月24日から26日及び12月1日から3日の全8回公演としてインターメディアテク全館を使って展開した。
「Play IMT」では、これまで一貫して、インターメディアテクの空間や展示物、そこで日々行われている活動、そこに集まる人々などを着想源に取り込み、演劇側とミュージアム側の双方から見て「面白い」実験となりうるテーマや内容をプロジェクトメンバー全員の力で練り上げていく、サイトスペシフィックな演劇創作を追求してきた。「Play IMT (7)」の創作プロセスのなかで、今回の演劇パフォーマンスのテーマとして設定したのは、演劇とミュージアムという二つの世界をつないだその間に生まれてくるもの(「インビトウィーン」)であり、「Play IMT」がこれまで追求してきた基本コンセプトに改めて向き合うことになった。
俳優がそのための重要な「媒介役」となることに注目してほしいという思いも、「インビトウィーン」という言葉がもつ二重の意味に込めた。これは2016年4月21日に行った公開座談会『Play IMT (6)−俳優を語る』にて、「いい俳優」とは何かという問いから、本プロジェクトにおける「俳優の存在」について掘り下げて考える機会をもったことにつながっている。
本番を迎えたパフォーマンスは、インターメディアテクの空間全体を回遊するように進む構成によって、各展示空間や個別の展示物の特徴を際立たせ、時にそれらに新たな意味や解釈を与え、今回のストーリー性の軸としたキーワードの通り、観覧者を巻き込みながら「成長」していった。この様子は、写真集として纏めた『imt_sd 別冊 Play IMT (7)−インビトウィーン・ワールド』をぜひご覧いただきたいと思う。
今回のパフォーマンスでわれわれが力を注いだ点であり、私の目から見て、実際に見どころとなったと自負している点として、特に二つを挙げたい。一つめは、「布」の使い方である。「Play IMT」では演劇専用の劇場では当たり前に用いられる演出効果を利用することが難しい。例えば、展示物保護のため強い照明を追加することはできないし、完全な暗転も不可能である。展示空間や展示物を舞台装置として最大限に活かすためには、大道具や小道具を自由に追加する選択肢が得策とはならない。そこで、変幻自在な動きや形とともに、多義的な象徴性を与えることが可能な布を小道具として用いることにした。この布によるさまざまな表現は、インターメディアテクの空間や展示物に対する、演出の金世一(キム・セイル)氏の豊かな感性と鋭い分析に基づくものであり、またその表現の多くには、空間や展示物とどのような関係づくりができるのか、俳優たちが稽古にて繰り返し取り組んだ即興創作から出てきたアイディアを取り込んだ。公演期間中、館内には赤と青の二色の布を天井に翻らせたインスタレーションを配した。このインスタレーションは、パフォーマンス時にはそれに呼応する大道具となり、天井の高いインターメディアテクの特徴を活かした空間デザインの実験ともなった(図1、2)。
二つめは「音・音楽」である。上述のように、「Play IMT」の演劇創作には演出効果の選択肢に条件がある。その制約から発想した時に、音や音楽は「Play IMT」にとって重要な構成要素になりうる。今回のパフォーマンスでは、公演開始時間に先立ち、俳優が楽器を演奏しながら館内を練り歩く「キルノリ(パレード)」が繰り広げられ、観覧者の期待感をかき立てつつ、最初の場面となるギメルームへと人々を誘う仕掛けを行った。俳優が展示ケースから鈴やカスタネットを取り出して観覧者に渡し、途中から彼らにも演奏に加わってもらうことで「参加型」の雰囲気を作るとともに、今回のパフォーマンスにおける音・音楽の存在感を初めから示すことにも成功していたように思う。さらに今回は、イ・ヨンジェ氏にオリジナル音楽の作曲と音楽監督を、シン・ドンウォン氏に音響監督を依頼し、両名を韓国から招聘することが叶った。彼らの貢献により、パフォーマンスを観覧者が追いかけていくと、インターメディアテクの各展示空間やパフォーマンスの展開に合わせて作曲された音楽が、複数台のブルートゥーススピーカーを通じてどこからともなく流れてくるような音響効果を狙うことができた。今回の音・音楽の可能性への挑戦によって、インターメディアテクの空間でしかできない演劇表現の可能性を広げることができた手応えを感じている。
今回の工夫・見どころの番外編として、もう一つ追加で紹介しておきたいのは、公演期間中の開館時間を通してアカデミア内に設置した映像インスタレーションである。アカデミアには、医学部本館の小講堂で実際に使われていた机と椅子を用いて階段教室が設えられ、その上部には、かつての東京大学教授たちの肖像画が並んでいる。その中の2点がちょうど修復中のため額縁のみが残されていたのを利用し、さらに、小柄な人であれば全身が収まるほどの大きさの額縁1点を持ち込み、合計3点の額縁の中に、映像監督の前川衛氏の撮影・編集による、「Play IMT (7)」出演俳優のモノローグ映像を投影した。周りの肖像画は決して動くことはない。そこに表情豊かに何かを語る俳優が同居する様を見て、「Play IMT」に取り組む動機として人に言葉で説明してきた世界観、すなわち死して動かないものや人工物ばかりが並ぶミュージアムに、生きて動く俳優たちの身体が加わった時に生み出される新しい世界の姿をシンプルに視覚化できた気がした。無声映像としたことで、俳優の生き生きと動く表情と肖像画の主の微動だにしない絵画的物質感の対比が際立ち、見る側にイメージの広がりを委ねることができたことも効果的であったと思う。(図3)。
4年に亘り継続してきたプロジェクトを一度総括する意味で、「Play IMT (7)」は一つの集大成となることを目指していた。もちろん構想したことのすべてが実現したわけではなく、私なりに反省点や持ち越した課題もある。しかし、実際に作り上げた「インビトウィーン・ワールド」は、いま振り返ってみて、それにふさわしいものになったのではないかと思っている。コラボレーターである劇団世amIメンバーをはじめ、出演者・スタッフおよび協力者の皆様、今年度の「Play IMT」の活動に助成をいただいた公益財団法人韓昌祐・哲文化財団に対し、改めて心より感謝申し上げたい。
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図1 大地と海のシーンより.
図2 鳥の部屋のシーンより.
図3 アカデミアでの映像インスタレーション.