マクロ先端研究発信グループ共同活動
かたちを読み解くハンズオン・ギャラリー
小敬寛(本館特任助教/近東考古学)
久保 泰(本館特任助教/古生物学)
尾嵜大真(本館特任研究員/年代学)
黒木真理(本学大学院農学生命科学研究科助教
/水圏生態学)
佐々木智彦(本館特任研究員/形態人類学)
鶴見英成(本館助教/アンデス考古学)
新原隆史(本学大学院工学系研究科助教/隕石
学・鉱物学)
矢後勝也(本館助教/昆虫自然史学・保全生物学)
2018年8月1日(水)・2日(木)の両日、「HandsOn 9 かたちを読み解くハンズオン・ギャラリー」が本館にて開催された。標本を手にとって観察できる「ハンズオン」型の展示企画は全国各地の博物館で盛んに試みられているが、東京大学総合研究博物館でもマクロ先端研究発信グループの共同活動として、2010年より継続的に実施してきた。この催しを通じて、標本から生み出される研究の広がりに触れてもらうために、毎回、各分野の研究部スタッフや関係研究者による多彩なギャラリーを展開している。一方で、すべてのギャラリーに通底する展示テーマを設けて、各回の個性を色づけてきた。9回目を迎えた今回、選ばれたテーマは「かたち」である。
とりわけ「マクロ」レベルの標本研究において、形態はきわめて直接的な情報であり、いかなる分野であっても重要視されていることに違いはないだろう。だが、その読み解き方は個々の専門性によって差異もあれば、分野を横断して共通する部分もあるかもしれない。多角的な標本の見方を養うとともに、分野間の学際的な接点を探るという意味では、来場者だけでなく参加する研究者にとっても大いに有益な機会となり得る。こうした意義こそ、私たちが協力しあってハンズオン・ギャラリーの開催を続けてきた理由の一つである。今回は、隕石学、古生物学、水圏生態学、昆虫学、人類学、年代学、考古学の各分野から合計8つのギャラリーを揃えることができた。各担当者の専門分野に応じて掲げられたギャラリーのタイトルは、次の通りである。
ギャラリー@ 隕石から探る太陽系のかたち(新原隆史)
ギャラリーA つばさのかたち―翼竜、トリ、コウモリの比較(久保 泰)
ギャラリーB 耳石のかたちから識別する魚の種類(黒木真理)
ギャラリーC 昆虫のオス・メスのかたちのちがいを読み解く(矢後勝也)
ギャラリーD 犬歯のかたち―ニホンザルのオスとメス(佐々木智彦)
ギャラリーE 炭素14を測る加速器質量分析計が明らかにすること(尾嵜大真)
ギャラリーF うつわのかたち1―土器片が語る古代社会(小敬寛)
ギャラリーG うつわのかたち2―ボトル型土器の迷宮を解く(鶴見英成)
それぞれ、手にとって観察できる標本が展示されただけでなく、ギャラリーによっては、画像を映し出すディスプレイや実際に操作して分析の体験ができる電子機器、さらには分析装置の仕組みが分かる模型を設置するなど、最先端の研究が効果的に伝わるよう様々な工夫が凝らされた(図1、2)。
また、本館のハンズオン展示は、実際に標本を扱っている研究者本人がギャラリーを企画・担当し、専門性に裏打ちされた臨場感あふれる解説を行なうのが大きな特徴である。但し、今回は担当の研究者だけでなく、同じ学問分野を学ぶ学生・大学院生ら8名も来場者への解説を担った。これは、大学博物館ならではの催事の活用として、将来の研究者たちに社会教育活動を経験してもらうことを意図したものである。呼びかけに応じて集ってくれた彼ら・彼女らには、開催当日だけでなく、準備・設営の段階から運営に参加してもらった。
開催後に感想を聞いてみると、老若男女、幅広い来場者に対する的確な説明のありかたなど、運営の難しさを実感するとともに、それに対処するため、かえって自身の知識を整理することができたとの話があがった。展示制作の実践的な技術習得とあわせて、所期の目的はそれなりに果たされたのではなかろうか。また、普段は接点を持たない異分野の研究者や学生と協働したことで、様々な研究活動の経験を聞き、その心構えについて意見を交換できたとの話もあった。これまで、ハンズオン・ギャラリーに参加した研究者たちが得てきた意義深い機会を、若い世代とも共有できたようである。
そして、今回のハンズオン・ギャラリーは、「高校生のための東京大学オープンキャンパス」における本館の実施企画としても位置づけられた。大学進学を目指すオープンキャンパス参加者に対しては、教職員だけでなく、先々共に学ぶかもしれない学生諸君ともふれあうことのできる、幅広い交流の場を提供できたのではなかろうか。一方で、参加してくれた学生の一人からは、意欲溢れる高校生からの鋭い質問が新たな気付きを与えてくれ、「面白い」「もっと知りたい」「自分も研究者になりたい」といった反応が励みとなった、という感想をもらった。数年後、互いに机を並べ、研究現場に並び立つ姿を想像させてくれる、とても喜ばしい話であった。
なお、当日は幸いにして大変多くの方々にお越しいただいた。2日間、私たちものべつ幕なしの応対に追われ、学生たちの協力があったからこそ、何とか事なきを得たというのが正直なところである。その盛況ぶりは、今回と同じくオープンキャンパスに合わせて実施された前回のハンズオン・ギャラリー(2017年8月2日・3日)と比べても、より一層の拍車がかかったように感じられた。長年の継続的な開催が功を奏して、ハンズオン・ギャラリーの反響は年を追うごとに増している、と思いたいところである。が、今回に限っては、同時開催中であった特別展「珠玉の昆虫標本―江戸から平成の昆虫研究を支えた東京大学秘蔵コレクション」との相乗効果も大きいのだろう。また、広報用のチラシを前回より増刷して配布し、あわせてポスターも制作したので、その効果が多少はあったのかもしれない。
いずれにせよ、両日とも会場が激しく混み合っていたことは確かである(図3)。ギャラリーは本館展示場内の限られた空間を縫うように配置されたが、人だかりによって常設展示の見学が阻害される部分も生じてしまったと思われる。前回のハンズオン・ギャラリーがかなりの混雑ぶりであったため、それまで各ギャラリーで配布していた紙媒体の展示解説資料を今回は一か所で配れるようにパンフレットとして束ねたり、その冒頭に会場案内図を掲載したり、会場内の案内表示を増やしたりして、来場者の円滑な動きを促すよう心掛けたつもりではある。しかし、本館展示場で適切に運営するうえでは、今回の来場者はもはや限界に近い数に達しているとの感が否めない。
こうした贅沢な悩みが生じてきたのも、これまでの地道な積み重ねと弛まぬ改善の成果といえるだろう。次回を迎えることができるのならば、いよいよハンズオン・ギャラリーは第10回の節目に到達する。これまでの蓄積をいかにして活用し、博物館の運営と個々人の研究活動の更なる発展に繋げていくか、先を見据えてしっかりと考えていきたい。
本活動は全国科学博物館振興財団・平成30年度科学博物館活動等助成事業(採択課題「ヒトとモノを介した『研究現場』の発信と人材育成への応用」)の助成を受けて実施した。開催にあたっては、本館ボランティアの皆様に多大なるご協力をいただいた。また、広報用のチラシやポスターのデザインは関岡裕之・本館特任准教授にお願いし、各ギャラリーの設置に際して松本文夫・本館特任教授のご指導を仰いだ。写真は佐藤一昭・本館博物館事業課係長にご提供いただいた。ここに記してお礼申し上げる。
ウロボロスVolume23 Number2のトップページへ