小石川分館学生ヴォランティア自主企画
親子小石川ミュージアムラボ2018夏「小石川・リノベーション大作戦―模型でつくる『みんなの空間』―」実施報告
坂口 舞(小石川分館学生ヴォランティア、駒澤大学大学院人文科学研究科歴史学専攻修士課程2年)
小石川分館では、2014年度から学生ヴォランティアによる自主企画活動を行っている。本稿では2018年8月18日に実施したワークショップについて、企画・立案段階から当日の開催に至るまでを報告する。
「親子小石川ミュージアムラボ」は、積極的な活動がしたいという学生ヴォランティアの要望に応える形で2014年に始まった。以来、小学生とその保護者を対象として、東京大学総合研究博物館小石川分館の周知と、内外への教育普及を目的に実施している。
企画・立案
ミュージアムラボは、毎年実施することを前提としていないが、昨年度のフィードバックとなるようなワークショップを継続的に開催し、自分たちの世代らしいヴォランティア活動を行いたいと考えたことも企画の契機となった。
前回と関連付け、比較するために、同じく「表現としての模型制作」をコンセプトに据えた。建築模型の制作は、小石川分館の常設展示「アーキテクトニカ」にちなんだものである。また、テーマは「リノベーション」と「みんなの空間」を設定した。小石川分館は、明治9年(1876)に建てられた旧東京医学校本館の一部を移築してきたもので、学校、大学事務室、博物館と多くの「リノベーション」を経て今日の姿に至っている。また「リノベーション」は昨今の建築、不動産業界の広告等でも多く耳にするような語句であり、建築が身近でない参加者にも関心を持って欲しいという狙いもあった。そして、もうひとつのテーマ「みんなの空間」は、それまで大学事務室として限られた人間にしか開かれていなかった小石川分館が、博物館という公共施設に生まれ変わったことに着想を得ている。このような経歴を持つ小石川分館を、さらに「リノベーション」して、多くの人が集まり、利用する場所に「変身」させるとどんな姿になるのだろうという期待から、ワークショップタイトルは「小石川・リノベーション大作戦―模型でつくる『みんなの空間』―」に決定した。
さて、ワークショップ開催にあたって、参加者に小石川分館ならではの学びを得て欲しいとの思いがある。そこで、本ワークショップの目標に@「リノベーション」とは何かを体感・理解する、Aアイディアを模型で表現するという2点を掲げ、これを参加者に達成してもらえるようなプログラム構成を目指した。
ワークショップでの主な活動は、前回に引き続き、建築模型の制作と展示とした。ワークショップでの作業時間は2時間程度と限られており、制限時間内に構想から作品完成に至るのは困難である。そこで、広告に小石川分館の建築模型の展開図をプリントし、告知段階で事前構想を練ってもらうよう促した。
また、同一条件下で参加者の発想を比較できるように、こちらで用意した「小石川分館」の模型用パーツを配布して、模型スケールと「リノベーション」対象の統一を図った。この段階で問題になったのは、「小石川分館」の範囲設定であったが、鶴見先生のご助言をいただきつつ、慎重に設定をした。当初のヴォランティアの案では敷地を含める予定だったが、ブラジルマツの木や池の扱いが難しく、分館の建物のみを扱うことにした。また、2000年以降に増築したエレベーターホールに関しては、原義的な意味の「リノベーション」がなされた小石川分館には該当しないと判断し、模型から排除することに決めた。
当日の様子
ワークショップは、例年と同様、趣旨説明と自己紹介、展示解説、作業、作品発表会の順で進められた。
ワークショップ開催の挨拶の後、ヴォランティアメンバーと参加者の自己紹介を行った。名前と学年の他に、模型制作のテーマである「みんなの空間」に関連して思い出に残っている楽しい場所を紹介してもらった。長いすべり台のある公園や遊園地等、記憶を思い起こすことで、参加者の「みんなの空間」のイメージがより具体的になったのではないだろうか。
自己紹介の後は、ワークショップ趣旨の理解を深めるための展示解説を行った。ここでは、小石川分館に展示されている建築模型を用いて「リノベーション」の実例を説明し、作品構想や模型表現のヒントを得てもらう狙いがあった。
解説で取り上げた模型は、「テート・モダン」「東京大学工学部2号館」「ザ・プロジェクト」(セルジオ・マリア・カラトローニ設計、小石川分館コンセプト模型)の3点である。まず、「テート・モダン」は外観を残して内装を作り変えた例、「東京大学工学部2号館」は古い建物の周りに新しい建物を増築した例として紹介した。続いて、「空間模型」の部屋で、小石川分館にも「古い部分」と「新しい部分」があることをクイズ形式で説明し、当館がまさに「リノベーション」されてきた建物であることを伝えた。最後に「ザ・プロジェクト」を挙げ、模型表現の多様性を提示した。この模型は、小石川分館を現在の姿に「リノベーション」する際の空間利用のコンセプトを示す模型であり、「空間」をプラスチック製の半透明なブロックで表現している点が特徴的である。他にも、先の2点と比較して、細部の表現が省略されている点や木で作られている点に着目し、模型制作の目的によって、表現や材料は様々であることを確認してもらった。
展示解説後はいよいよ作業開始となる。参加者には、「小石川分館」の模型用パーツ、A3判スチレンボードやプラ板等の増築用材料、カッターやスチレン糊等の道具を作業前に配布した。例年ワークショップでは、作業の効率化と安全の確保を目的に作業説明を入念に行っている。特に今年は、配布パーツが多く、切断にコツの要るスチレンボードを多用するため、カッティングの実演も交えた丁寧な作業説明だった。各パーツにも記号を振り、なるべく分かりやすいように努めた。
作業(図1)は中間報告を挟んで2時間程度続いた。参加者には小学校低学年の児童もいたものの、最後まで集中を欠かさず熱心に取り組んでいた姿が印象的であった。時には、繊細なカッターの使い方や、オブジェクトの作り方に悩む参加者に対して、ヴォランティアが手法を提案したり、実演してみせたり等のサポートを行った。子どもたちの発想は非常に豊かで、特に材料の自由な使い方には驚かされることが多かった。
完成した作品は、1階展示室「図書カードの部屋」に展示(図2、3)した。キャプションは各自後半の作業時間中に作成してもらい、作品とともに展示したが、館内のキャプションと異なり、それぞれに趣向を凝らした色鮮やかなキャプションが並んだ。また、配置の際は、各自の作品の魅力を一番よく伝えられるような角度と位置を考えて配置してもらうようにした。
発表会(図4)では、どんな人たちが・何をする場所を作ったのかに加えて、工夫点や見どころについてもヴォランティアとのインタビュー形式で発表してもらった。光をふんだんに取り込んだホテルや学校、幼稚園等、横に広い壁を活用したリノベーション案の他に、天井が遊具になった家や風景を見るためのビル、足湯を設置した休憩所等、「みんな」がリラックスできる場所になるような「リノベーション」案が出された。参加者は皆お互いの作品に興味津々で、発表の途中でも待ちきれずに質問が出てしまうほど、発表会は大変な盛り上がりを見せた。個人の発表が終わると、松本先生より全体の講評をいただき、記念撮影をしてから解散となった。参加者は満足気で、中には次回の参加を約束してくれた参加者もいた。
今回のワークショップは、企画段階でやや作業が難航したものの、当日に目立った反省点は無く、成功したといえよう。
昨今は殊に文化施設の在り方と必要性が問われている世の中であるが、実際に博物館を通じて社会教育を考え、それを実行することで、身をもって社会における博物館等文化施設の立場を考えることができた。外部への教育普及活動として以上に、学生ヴォランティア自身の生涯学習の機会として、これほど貴重な経験は無いと感じている。今後も小石川分館らしいワークショップを継続していきたいと願う。
小石川ミュージアムラボ実行委員会 坂口 舞・杉山佳恵・杉本拓也・前田穂奈美・米村美紀(以上、小石川分館学生ヴォランティア、50音順)
ミュージアムラボアドヴァイザー 鶴見英成・松本文夫・永井慧彦(本館教職員)
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