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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime24Number2



小石川分館学生ヴォランティア自主企画
パースペクティブをめぐる再発見:親子小石川ミュージアムラボ2019夏「ブンカン・パースペクティブ―鉛筆で描いてあらわす あなたの視点―」開催報告

米村美紀(小石川分館学生ヴォランティア、 本学大学院工学系研究科建築学専攻博士後期課程3年)

 小石川分館学生ヴォランティアは、ギャラリートーク・資料整理などの通常活動に加えて、年に一度自主企画に取り組んでいる。ヴォランティアが企画発案し、分館の教職員からアドヴァイスを頂きながら実施するもので、過去には小学生親子を対象としたワークショップの企画(『ウロボロス』Volume 24/ Number 1、2019年、同Volume 22/ Number 3、2019年)や、寄贈資料を活用した特別展(『工学主義―田中林太郎・不二・儀一の仕事』、『ウロボロス』Volume 21/ Number 3、2017年)などを行ってきた。2019年度は、8月に小中学生親子を対象として透視図に関するワークショップ「ブンカン・パースペクティブ―鉛筆で 描いてあらわす あなたの視点―」を実施した。本稿では,その企画について報告する。

企画・立案
 テーマの設定にあたって重要視したのは、小石川分館という場所を活用すること、過去の企画の焼き直しではなく新しい取り組みに挑戦すること、制作が個々人で閉じぬよう「制作物を以て他者へ伝えること」を主軸とすることの3点であり、これは過去のワークショップでも一貫して意識してきたことである。小石川分館の常設展『建築博物誌アーキテクトニカ』になぞらえて建築を題材にすることとしたが、直近2年間には建築模型の制作を行なっていたため、それらと違いを持たせるために立体物ではなく絵や図面の制作を主たる活動とし、それを通して平面で空間を表現することの面白さを伝えたいと考えた。
 素案として、常設展で展示している模型を自由な視点からスケッチするという題材を設定した。検討のため、6月末に松本文夫先生に透視図法のレクチャーおよび実習をお願いし、ヴォランティア自身が実際に制作に取り組んでから、テーマやコンセプトについて再度打ち合わせを行った。この日の成果をふまえて、分館の内部空間をベースに、自由に書き込んで空間デザインするというプログラムが決まった。イベントタイトルにも据えた「パースペクティブ」とは、透視図のほかに視点という意味を持つ。透視図法は描き手が視点を自由に操ることで空間を表現するものであるが、そこに参加者それぞれの自由な発想を重ねるという要素を加えることで、それぞれの視点―自分の見たもの、思い描いたもの―を作品として表現する面白さを伝えたいという思いをタイトルに込めた。
 企画コンセプトが決定してからは、ポスターや制作例として提示するためのパースを作成するとともに、制作説明およびギャラリートークの構成について検討を重ねた。ポスターのメインイメージは、イベントの狙いを伝えるため小石川分館展示室の写真にパースを重ねたものとした(図1)。

当日の様子
 ワークショップは8月11日(日・祝)に開催し、小学1年生から中学2年生までの参加者およびその保護者18名を迎えた。挨拶・自己紹介ののちに、制作内容、特に透視図法に関する10分程度のレクチャーを行った。
レクチャーは、小学生にも分かり且つ中学生に易しすぎない説明を心がけ、写真を用いながら平面での奥行き表現に着目した説明を行った。つづくギャラリートークでは、参加者が小石川分館の中で描きたい空間を探してもらうことを主眼とし、展示内容への言及は最小限にとどめて、建築空間の奥行きや広がりに視線を誘導しながら館内を巡った。
 制作には約2時間を充て、前半では空間をとらえること、後半は自由に描くことを目標に掲げた。参加者は親子で組になって各々館内に椅子を置き、黙々と、時には対話しながら制作に取り組んだ。展示物から着想を得て想像を膨らませたり、展示ケースを活かして異なる用途を与えたり、あるいは高さ方向にダイナミックに拡張したりと、企画側の想像を飛び越えた発想に驚かされた。消失点や奥行き表現といった技術的なハードルを前に、なかなか手が動き出さない参加者もいたが、「この場所の何が気に入ったか」「好きなことをやる場所にしよう」といった対話や声かけを通して、全員の紙上にそれぞれの空間が立ち上がった。また、保護者には制作全般のサポートを依頼したが、余裕があれば同じ視点で制作してみるよう呼びかけたところ、多くの保護者が子どもと同じ空間を異なる視点で描いた作品を制作してくれた。
 制作の後には展示発表の時間を設けた。それぞれが制作時に座っていた場所へ行き、作品のタイトル、表現したかったものなどについてインタビュー形式で質問していった(図2)。短い制作時間ながらも、参加者それぞれがその空間に向き合い、こだわりをもって制作を進めていった様子が窺われた。最後に松本先生から全体の講評として、透視図のもつ「空間の観察」、「新しいイメージの創造」という役割についてのお話をいただき、閉会とした。
 直接、あるいはアンケートを通して参加者の声を聞くことができたが、子どもからは「はじめは難しかったがだんだん楽しくなった」、「展示されているものにも興味をもった」という感想があったほか、保護者からは「透視図法について知るきっかけになった」「子どもと一緒に描くことができ楽しめた」などと好評をいただいた。透視図というやや難しい内容ながら、参加してくれた子ども達の楽しそうな姿を見ることができ、充実した会となったことが感じられた。また、保護者が真剣かつ楽しそうに子どもに寄り添って取り組んでいる姿は、とても印象的であった。

本企画を振り返って
 昨年とは違うことを、という意図で透視図をテーマに選んだが、テーマだけでなく、準備段階や当日の進め方においても、結果として新たな気づきが得られたワークショップとなった。
 今回新しく導入したのが、松本先生に依頼した透視図法の勉強会である。これまでのワークショップにおいても試作会を設け、説明方法や時間配分の検討を行っていたが、専門家からレクチャーを受ける機会は初めてであり、ヴォランティア側も新たな知識を得ながら企画を進めることができた。特にレクチャーで知った空間表現の歴史や「パースペクティブ」「視点」といった概念同士の連関について意識してはじめて、本プログラムに筋が通ったといっても過言ではない。ヴォランティアの工夫・発想の延長だけでなく、知の支えを得たテーマであるということは、企画の推進力にもつながった。
 また、透視図というやや高度な内容となったことを受けて、前年までは小学生のみとしていた対象年齢を中学生までに広げた。参加者の年齢幅が広がることによって作品の多様性が広がるという利点がある一方で、ギャラリートークなどで使う言葉を選ぶのが非常に難しくなった。特に透視図法の説明に関しては、平易な表現を心がけたものの、技術的なハードルが高くなってしまい、パースを描くことと創造的な制作とが乖離してしまいそうな場面も見られた。制作中の保護者のフォローやヴォランティアの声かけによってなんとか形にすることはできたが、企画者?参加者間のコミュニケーションにおける今後の課題としたい。とはいえ、参加者それぞれがその場から受けたインスピレーションをもとに空間デザインを考えていった足跡を見てとることができた。ただ架空のものを絵にするのではなく、実在する1:1スケールの空間に空想のレイヤーを重ねてみるパースペクティブを体験いただけたのであれば、企画者としては喜ばしいことである。
 ヴォランティアが自由に企画を運営する機会があるのは大変幸運なことであり、教職員の皆様に篤くお礼申し上げるとともに、参加者・企画者の双方が充実した学びを得ることのできるようなワークショップが今後も継続していくことを願う。

小石川ミュージアムラボ実行委員会:太田萌子・河野日南子・杉山佳恵・前田穂奈実・八尋有希・米村美紀 (小石川分館学生ヴォランティア)
ミュージアムラボアドヴァイザー:鶴見英成・松本文夫・永井慧彦(本館教職員)


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図1 ポスター.

図2 発表の様子.