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    シルビアシジミ属の種および亜種。分類体系はYago et al. (2008)による。左上:シルビアシジミ(名義タイプ亜種)♂、日本;同♀、日本、右上:シルビアシジミ(チベット亜種)♂、中国 ; 同♀、中国、左中央 : ヒメシルビアシジミ(琉球亜種)♂、沖縄;同♀、沖縄、右中央:ヒメシルビアシジミ(東南アジア亜種)♂、インドネシア;同♀、インドネシア、左下:ヒメシルビアシジミ(インド亜種)♂、インド;ヒメシルビアシジミ(アフリカ亜種)♀、ガーナ、右下 : オックスレイシルビアシジミ♂、ニュージーランド ; 同♀、ニュージーランド

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    シルビアシジミ属の分子系統樹。Yago et al. (2008)を改変。樹形はミトコンドリアDNAのND5(878 bp)に基づいて近隣結合法により構築。右は新体系での3種(ヒメシルビアシジミZ. otis, シルビアシジミZ. emelina, オックスレイシルビアシジミZ. oxleyi)の♂翅表裏(左:表;右:裏)と♂交尾器(左側面)を示している

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    シルビアシジミ属の分子系統地理。各種・亜種の学名はYago et al. (2008)の体系で示し、合わせて♂標本を図示(左:翅表;右:翅裏)、赤枠:シルビアシジミ;青枠:ヒメシルビアシジミ;紫枠:オックスレイシルビアシジミ)

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シルビアシジミ属
同胞種の種分化と系統地理

生殖的には隔離されているが、形態ではほとんど区別できない近縁な2種あるいは近縁種の一群を同胞種(sibling speciesまたは隠蔽種cryptic species)という。このような同胞種を含むシジミチョウ科蝶類にシルビアシジミ属Zizinaがある。かつて本属の種レベルでの分類では、日本を含む東洋区の温帯〜熱帯域に広く生息するシルビアシジミZizina ortis、オーストラリア区に繁栄するミナミシルビアシジミZizina labradus、ニュージーランドの固有種オックスレイシルビアシジミZizina oxleyi、アフリカに産するアフリカシルビアシジミZizina antanossa の4種とする説が最有力であった。

ところが、世界各地の188個体を用いて分子系統解析を行ったところ、3分岐となる3つの大きなクレードが認められたが、これまで認識されていた4種でクレードを形成することはなかった。一方、 生殖的隔離を判断できる♂交尾器を検討したところ、分子系統解析で得られた3つのクレードにほぼ対応した形態変異が認められた。これらの事実から本属をZ. otisZ. oxleyi、そしてZ. otis の亜種emelinaから格上げされたZ. emelinaの3種に分類して、独立種として扱われることが多かったミナミシルビアシジミZ. labradusやアフリカシルビアシジミZ. antanossaZ. otisの亜種とするのが妥当であると判断した。結果として、日本産シルビアシジミは2種に分かれ、本土産のシルビアシジミにはZizina emelinaの学名を当てて、南西諸島産を含むZ. otisには新和名ヒメシルビアシジミと命名した。

一方、シルビアシジミ属の進化史を系統地理学的に推測すると、初期の大きく3つのクレードに分かれた分岐年代は約270万年前と推定されたが、この時期は氷期と間氷期の激しい変動の繰り返しが始まった頃と一致する。この気候変動が本属の共通祖先を3つに分断させ、両極の温帯にそれぞれ適応して種分化したのが東アジアのシルビアシジミおよびニュージーランド固有のオックスレイシルビアシジミで、熱帯〜亜熱帯に適応して生じたのがヒメシルビアシジミと考えられた。この研究は両極方向への進展則(progression rule)で種分化を起こしたチョウを分子系統から証明したほぼ初めての事例にもなっている。 (矢後勝也)

参考文献 References

Yago, M. et al. (2008) Molecular systematics and biogeography of the genus Zizina (Lepidoptera: Lycaenidae). Zootaxa 1746: 15–38.

Bridges, C. A. (1988) Catalogue of Lycaenidae & Riodinidae (Lepidoptera: Rhopalocera). Urbana: Private publication.