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炭素質コンドライトに含まれるCAI
太陽系最古の固体物質
炭素質コンドライトは、太陽系に存在する固体物質の中で最も古い記録を残す隕石である。この種の隕石はコンドルールとよばれる球粒のほかに、多くの包有物も含む。その中にはカルシウムやアルミニウムに富んだ白色の包有物(CAI)が含まれている。このCAIは鉛同位体を用いた年代測定によると約45.7億年前に形成したことがわかっており、太陽系のなかで最も古い物質である。また元素存在度にも特異性があり、初期太陽系での物質進化過程を残していると考えられている。アエンデ隕石は地球で見つかった隕石の中でも最も質量の多い炭素質コンドライト(総重量2 t)であり、展示している標本のように落下直後に大きな塊で回収されたことにより、均質な化学組成を持つことが明らかとなり、化学分析においては標準物質としても利用されている。1970年代よりこの隕石に含まれるCAIについて精力的に研究が行われている。
原始太陽系星雲では、高温ガス(2000K以上)の冷却に従い、熱力学的に安定する鉱物がガスから順次析出する。この過程を「凝縮」と呼んでいる。希土類元素(REEs)やアクチノイド(ThやUなど)も1500Kと高温のうちに固体へと凝縮する(ただし、これらの元素を主成分とする鉱物として析出するわけではなく、ほかの元素や鉱物と一緒に固相となる)。主要元素としては、1700-1500Kでカルシウムやアルミニウム、チタンなどがケイ酸塩鉱物や酸化鉱物として凝縮し、次に1400Kほどでマグネシウムやケイ素、鉄と続き、隕石に含まれる主要鉱物や金属を形成する。CAIには初期太陽系での凝縮過程で形成したと考えられる高温生成鉱物が多く含まれているだけではなく、より高温で凝縮したと考えられる超難揮発性元素からなる物質が見つかっている。さらにカルシウムやアルミニウムからランタノイドやアクチノイドまでの元素が、一様な濃度をもつ。このことから、アエンデ隕石に含まれるCAIは原始太陽系円盤の高温ガスから凝縮した物質の集合体であることが明らかとなった。現在ではCAIにも様々な種類があり、より複雑なプロセスを経て形成されたと考えられているが、少なくとも原始太陽系でのガスから固体への凝縮過程で説明が可能な物質が多く含まれているという事実は揺るがない。 (新原隆史)