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    ザガミ隕石。1962年ナイジェリアに落下、不適合元素に富む玄武岩質シャーゴッタイト(ME00116)

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玄武岩質シャーゴッタイト
2億年前の火星火山の記録

1976年、NASAの火星着陸機「バイキング」は火星表面へと降り立ち、数々の調査を行った。その中には火星大気組成の分析も含まれていた。さて火星表面に他から来た天体が衝突すると、表面の岩石が火星から放り出されることがある。このとき、岩石の一部が溶融し火星大気を岩石中に閉じ込めることがあるだろう。こう考えたNASAのボガード博士らは、EET 79001と呼ばれる隕石に閉じ込められていた大気の同位体組成を調べたところ、バイキング探査機が測定した火星大気組成と同じであることが明らかになった。こうして、ある種の隕石が火星起源であることが確認された。

火星隕石は岩石学的特徴により主に、シャーゴッタイト、ナクライト、シャシナイトやALH 84001に分けられている。これらの隕石は火星での火成活動で形成したと考えられている。シャーゴッタイトは岩石学的分類により、玄武岩質、レルゾライト質、およびオリビンフィリックに、さらに化学的特徴から、不適合元素に富むもの、乏しいもの、その中間のものに分けられる。これらの違いは、火星で生じたマグマの起源物質の違いによるものと考えられている。放射性同位体を用いた年代測定によると、ALH 84001は約41億年前、ナクライト・シャシナイトは約13億年前に、シャーゴッタイトは5億年前から1億8千万年前の火成活動で形成したものであった。

展示しているザガミ隕石(切断スラブ)は約2億年前に形成した不適合元素に富む玄武岩質シャーゴッタイトであり、この隕石に含まれる輝石の化学組成の累帯構造を調べると、2段階での結晶成長の痕跡がうかがえる。第一段階はマグマ溜まり内での結晶化である。十分にゆっくりと結晶が成長することにより、鉱物の組成は均質なものとなる。第二段階は表層での急速な冷却過程であり、鉱物の組成は連続して変化をする(累帯構造)。このように火星起源隕石を調べることで、過去の火星の火山活動や、地殻物質の形成過程に関する知見を得ることができる。 (新原隆史)