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ハリネズミの胎子シリーズ
胎子の成長が語るからだの進化
地球上に生息する様々な動物のうち、骨のある動物のことを脊椎動物という。我々哺乳類も脊椎動物に属す。脊椎動物にとって骨は、体を内側から支える屋台骨であり、脳や内臓を内側に秘めて守る防壁であり、様々な動きや力を生み出す筋肉を張り付ける足場でもある。骨はもちろん受精卵の時からあるわけでない。受精卵が成長して体が作られていく中でリン酸カルシウムが凝集して固まって骨はできてゆく。脊椎動物の体には沢山の骨があるが、それら全ては同時に一気にできるわけではなく、少しずつ作られていく。
展示品は様々な成長段階のマンシュウハリネズミの胎子の実物標本をマイクロCT撮影し、高精度の3Dプリンタを用いて外表と骨格を二倍寸拡大にて出力したものである。少しずつ形成されてゆく骨格を確認することが出来る。頭部を見ると、離れ小島のように散らばった骨片がだんだんと大きくなり、相互に接続していく過程が見て取れる。哺乳類の頭部は普通20数種の骨パーツから出来ており、それらがバラバラに形成され、拡大・変形し、最終的に頭部全体の形状をつくってゆく。どの骨をいつ作り始めるのかというのは動物にとって、とても重要な意味をもつ。全ての哺乳類において(そして恐らく全ての脊椎動物では)体じゅうの骨の中で下顎の骨が一番始めにできる。下顎の骨は歯に次いで体の中でもっとも硬い部位にあたる。食べ物を力強く咀嚼し、噛む時に起きる衝撃に耐えるために下顎の骨はできるだけ硬くある必要があるのだ。骨をできるだけ硬く作るために、できるだけ早い段階からリン酸カルシウムの凝集を開始し、骨づくりの期間をできるだけ長く取っていると考えられる。
筆者らの研究によって、骨を体の中で組み立てていく順番には動物によってルールがあることがわかってきた。後頭部に位置する骨片群の発生のタイミングが哺乳類では種によって大きく異なることがわかってきた。102種の哺乳類の胎子期における頭部発生を比較分析した結果、後頭部に位置する骨片(前頭骨、頭頂骨、上後頭骨)の形成タイミングとその多様性の進化は、哺乳類の脳の大きさの進化(大脳化)と強く結びついていることが明らかになった。ヒトを含む霊長類やイルカなどのように体と比べて脳が相対的に大きい種ほど、後頭部に位置する前頭骨、頭頂骨、底後頭骨、外後頭骨、上後頭骨の形成されるタイミングが早い。哺乳類は脳の大きさを進化させたことに伴って、脳を覆う頭蓋骨の形成タイミングも早期化したと考えられる。脳の大きな種では脳が発生するのに合わせて、脳を覆い守る頭蓋骨が十分に発達しないと脳がむき出しになり損傷する危険性がある。そこで、より脳が大きく進化した哺乳類では骨も脳に呼応して、より早く形成されるよう進化した可能性が指摘できる。 (小薮大輔)
参考文献 References
Koyabu, D. et al. (2011) Heterochrony and developmental modularity of cranial osteogenesis in lipotyphlan mammals. Evo Devo 2: 21.
Koyabu, D. et al. (2012) Paleontological and developmental evidence resolve the homology and dual embryonic origin of a mammalian skull bone, the interparietal. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 109 (35): 14075–14080.
Koyabu, D. et al. (2014) Mammalian skull heterochrony reveals modular evolution and a link between cranial development and brain size. Nature Communications 5: 365.