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    ユビナガコウモリ Miniopterus schreibersii の出生直前の後期胎子を三次元プリンタで出力したもの。コウモリは十分成長しきるまで、新生子は3週間~3ヶ月ほど自力で母親にしがみ続ける必要がある。そのため、コウモリの足は他の哺乳類に比べて急速に形成され、母親の足の約90%の大きさで生まれてくる。本標本でもよく発達した大きな足が確認できる(UMUT-16012)

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    有袋類(オポッサム)の新生子の透明二重染色標本。骨化が済んでいる骨のみが赤く染められている。前足は骨化が済んでいるが、後足は未だ骨化していないのが確認でき、前足のほうが形成が早いことがわかる

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    コウモリの出生直前の胎子液浸標本。翼はまだ未発達だが、後足はほぼ成体のサイズに達している

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    母親に後足でしがみつくコウモリの新生子

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B42
コウモリ類の胎子
生活史と形作りの順序戦略

展示品はユビナガコウモリ(Miniopterus schreibersii) の出生直前の後期胎子である。コウモリ類は脊椎動物のなかでは鳥類と並び飛翔機能を獲得した稀有な動物群である。コウモリというと普通その独特の翼をすぐイメージしてしまいがちであるが、コウモリは翼を得たがために足の形成時期も同じく変えて進化した。著者の研究からコウモリは際立って変わった骨の形成をすることがわかってきた。

コウモリの話の前にまず哺乳類における体づくりの順番の重要性を述べる。その例として有袋類を紹介したい。有袋類は地球上の哺乳類のなかでは胎盤の構造が原始的な動物で、赤ちゃんのサイズが一定以上になると母親は母胎の中に赤ちゃんをとどめておくことができない。赤ちゃんの体の形成が十分に終わるまえに赤ちゃんは外界に産み落とされてしまうのだ。カンガルーだと赤ちゃんの体重は1gにも満たない、とても未熟な状態で産まれる。しかし、有袋類の赤ちゃんは産道から産まれたあと、母親の袋まで自力で移動する必要がある。母親のお腹をロッククライマーのようにつたってよじ登り、自力でフクロにもぐり込む。このとき、赤ちゃんは一生懸命に腕を使ってよじ登る。この独特の赤ちゃんの行動にとって、前足の力が重要になるため生まれてくるときにはしっかりと機能する力強い腕をもって生まれてくる必要がある。生まれたばかりの有袋類の赤ちゃんの体を見ると、前足は形成されているが、後足は形成されれていない。つまり、産まれる時までの限られた時間のなかで、生後に重要な役割を果たす前足を後足より優先して形成させるわけだ。

一方、コウモリでは翼となる前足よりも後足のほうが優先して形成される。コウモリは前足を先に形成する有袋類とは全く逆の進化をしているわけだ。生まれたばかりのコウモリの赤ちゃんの足裏の長さを見ると、母親のおおよそ90%近い長さで生まれてくる。ヒトならば25cmのお母さんに23cmの足の赤ちゃんが生まれるような状態である。コウモリの赤ちゃんはとんでもなく大足の赤ちゃんなのだ。ここにまた大きな意味が込められている。大人のコウモリは立派な翼で飛ぶことができるが、産まれてすぐのコウモリの赤ちゃんもすぐ飛べるわけではない。産まれてすぐのコウモリの赤ちゃんの翼はオトナの3分の1ほどの大きさしかなく、きちんと翼として十分機能するまで3週間~3ヶ月ものあいだ母親にしがみついている必要がある。その際、赤ちゃんは足の裏で母親の体をガッチリと掴んで母親にしがみつく。生まれてすぐ足がしっかり機能する必要性が有るために、オトナとほとんど変わらないような大きさの足を持って生まれてくるのだ。赤ちゃんにとっては翼を作るよりも、足を作るほうが死活問題であるため、コウモリでは後足を優先して形成しているのである。コウモリは進化の過程で翼を獲得したわけだが、それ故に赤ちゃんの生活も他の哺乳類に比べて大きく変化し、コウモリの赤ちゃんでは足こそが大事になったのである。 (小薮大輔)

参考文献 References

Koyabu, D. & Son, N. T. (2014) Patterns of postcranial ossification and sequence heterochrony in bats: life histories and developmental trade-offs. Journal of Experimental Zoology Part B: Molecular and Developmental Evolution 322: 607–618.