D3
地質学的古生物学
古生物とは過去に存在した生命全てを指す言葉であり、古生物学は過去の全生命を対象とする学問である。その研究材料は過去の生命の痕跡である「化石」が主体である。
化石には2つの側面がある。化石は堆積岩中に含まれているため、地層の一部である。従って、地層を理解するための研究材料として利用される。一方、化石は過去の生命の痕跡であるため、生物としての情報も含んでいる。体の構造だけでなく、生活史や生態、生息環境なども化石から復元できることがある。
日本の大学では、古生物学は地質学の一分野として出発し、古生物学の講座は常に地質学の教室の一講座として存在してきた。従って、当初は地質学としての化石研究が強調されてきた。東京大学においても、化石の研究は生命の記録としての視点は乏しく、地層を研究するためのツールのひとつであった。
そのような「地質学的古生物学」は1960年代頃まで東大における古生物学の主流であった。例えば、横山又次郎博士による新生代貝化石の研究、小林貞一博士による東アジアの軟体動物、腕足動物、三葉虫等の研究、松本達郎博士による中生代白亜紀アンモナイトの研究、などが代表的である。これらの研究は、地層の分布を明らかにし、異なる場所にある地層を対比し、年代を決定し、形成史を理解することを目的とする。専門分野で言えば、層序学や構造地質学が最も密接に関連する分野である。
さらに1960年代までは資源探査としての意義も含まれていた。例えば、この頃までの化石の報告論文には炭田からの化石の記載がある。石炭が採掘されなくなった現在では入手不可能な研究材料になっている。
小林貞一博士の記載標本は特に点数が多く、1930年代から1960年代を代表する化石コレクションである。(佐々木猛智・伊藤泰弘)
参考文献 References
佐々木猛智(2012)「東大古生物学の130年」『東大古生物学—化石からみる生命史』佐々木猛智・伊藤泰弘(編):175–197、東海大学出版会。