東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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ウロボロス開館10周年記念号

総合研究博物館の出版物

西秋 良宏 (本館助教授/先史考古学)

総合研究博物館の出版物で一般の方に最もなじみがあるのは、特別展示開催に際して刊行されてきた展示図録であろう。資料館時代の1994年から本格出版が開始され、1996年改組以降には毎年少なくとも2 冊、続々と発刊されてきた。今では総計20冊を越えている。展示物の目録というよりは、それに関する論文集仕立てにすることを目論んで編んでいるため、大部な書籍となったものが多い。中には『学問のアルケオロジー』(1997年)や『真贋のはざま』(2001 年)、『関野貞アジア踏査』(2005 年)のように、小さな字がびっしりつまった500頁前後もの作品もある。2002年にミュージアム・テクノロジー研究部門が開設されて以降は、『石の記憶』(2002 年)、『アフリカの骨、縄文の骨』(2006 年)など、標本の解説論文だけでなく、展示制作の裏側を報じたメイキング記事をも含むユニークな図録も出始めた。
もうひとつ一般向けに刊行されているのは、本誌もその一部であるところの『ウロボロス』である。資料館時代の『総合研究資料館ニュース』を1996年に衣替えした情報誌である。年度初め、およびほぼ年2 回の特別展示開催にあわせ年3冊刊行されている。博物館の情報誌と言えば厚みのないパンフレット形式をとる場合が多いが、『ウロボロス』の創刊にあたって心したのは、薄手ではあっても十分読み応えのある記事を掲載することであった。もっと言えば、手に取った読者が読後、捨てずにとっておいてくださるような印刷物にしたかった。そのため、記事の充実だけでなく、予算の許す限りでスタイリッシュな装丁・編集も心がけつつ現在に至っている。
さて、こうした展示図録や情報誌はもっぱら一般読者を想定したものであるが、専門家向けの出版物も多数刊行されている。それには論文集として研究報告(Bulletin)、モノグラフ(UMUT Monograph)、カタログとして標本資料目録(MaterialReport)の総計3 種があり、本文はたいてい英文で書かれている。資料館時代には研究報告、研究集報(NatureandCulture)、業績集(Collected papers)、標本資料目録と4種あったシリーズが再編されたものである。その再編の経緯については少々、説明が必要である。
館内で生産された研究成果を発表する論文集としては、そもそも研究報告、研究集報、業績集があった。業績集というのは、収蔵標本を用いて各種雑誌に発表された諸論文の抜き刷りを合冊した出版物である。毎年、館内でどのような論文が生産されているのかを知るには便利な書物であったが、収録すべき論文数の急増、その網羅的収集の難しさもあって、総合研究博物館改組後にはその役目を終えたと判断され廃刊となった。
一方、研究報告と研究集報は一定のテーマにもとづいた研究成果を発表する書籍として刊行されていた。両者の違いは、研究報告が館蔵品に関する研究を、研究集報は必ずしも館蔵品にこだわらない成果を掲載するという点にあった。また、前者が出版契約を結んで東京大学出版会を通じて一般書籍として販売されたのに対し、後者は資料館の独自出版物として迅速に刊行するという区別もあった。結果として、研究報告は1970年の創刊以来、主として学位論文やフィールドワークの成果、1999年創刊の研究集報にはシンポジウムの議事録などが発表されてきている。しかし、研究内容の多様化、また、博物館への改組後、東京大学出版会での研究報告出版契約がなくなったことをうけ、現在では両者は研究報告として一本化されることとなった。かわって、外部の出版社と契約をむすびつつ刊行する書籍として新たに加わったのがモノグラフである。このシリーズは、精細図版の掲載が可能になるよう版型をA4に大型化させた出版物とした。創刊号は2001年、英国の出版社から刊行された中東遺跡の考古学的研究成果であった。
もう一つの出版物、標本資料目録は資料館時代から変わらず刊行されている。この書籍は、本誌別項でも詳述されているように、標本群ごとに日々実施されているキュラトリアル・ワークの成果発表の場であり、館蔵品の公式カタログとして位置づけられている。一部はデジタル化されたデータベースとして博物館ホームページでも公開されてもいる。
以上述べた研究報告、モノグラフ、標本資料目録は、投稿を受け付け次第、専門家の査読を経て編集委員会で審査の上、刊行される出版物である。博物館での利用手続きがなされていれば、投稿資格は館外部局所属の研究者にも開かれている。いずれも骨太の論文(集)ないし目録であり、紙幅の限られた雑誌への投稿に向かない大部な研究成果の発表、大量の学術標本記載の場を提供する媒体として、モノ研究の進展にひろく貢献している。展示図録や情報誌が一般向けの博物館の顔であるとすると、これらの出版物はそれらを生み出す元となった基礎研究の証左である。研究博物館の底力を示す出版物だと言うこともできよう。

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UMUT Monograph創刊号