東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime13Number2



海外モバイル展示
海外モバイルミュージアムMM010CN:
異星の踏査at清華大学

宮本英昭(本館准教授/固体惑星科学)
洪  恒夫(本館特任教授/展示デザイン)
関岡裕之(本館特任准教授/博物館デザイン)
橘  省吾(本学理学系研究科助教/惑星科学)
寺田鮎美(本館特任助教/博物館論)
 今春、北京で「異星の踏査展」を開催した。これは近年猛烈な勢いで進んでいる惑星探査の最新成果を紹介するもので、1年前に東京大学総合研究博物館で開催された同名の展覧会をモバイルミュージアム版に組み替えたものである。この展示会は「東大ウィークat清華大学」という東京大学の活動を紹介するイベントの一部として清華大学のキャンパスで行われたため、東京大学の紹介や、東京大学で行われている様々な研究の紹介も行った。
 この話が持ち上がったのは、今年(2008年)に入ってからであった。当初は、異星の踏査展が好評であったから、これをそのまま中国に持って行ったらどうか、といった程度の話であった。海外でも惑星科学の研究を紹介できるとはとても光栄なことであるし、そもそも海外での展示事業というのも面白そうだ。このように気軽に考えながら、「異星の踏査」の中心的なスタッフ3人で高揚感と共に現地へ下見に行くことにした。ところが現地に着くやいなや、これは想像以上に大変な仕事だと痛感させられた。そもそも展示を行う場所が無い。現地で案内されたのは、ひと気のない図書館の一室や、アクセスの悪い古びた建物の片隅で、ひと目で全く展示には向かないとわかる。さらに政治的な事情もあるのか、宣伝を自由に行う事が難しいという噂も聞こえてきた。
 つまり現実的に考えて、日本で行っていた展示をそのまま持って行くことは難しいようだ。それならばコンテンツを取捨選択し、うまく現地の条件に合う形で組み替えるしかない。これはまさしく、パッケージ化された展示コンテンツを遊動させ仮設展示を行うという、本館で進めている「モバイルミュージアム」というコンセプトに合致する。そこで今回の企画をモバイルミュージアムの海外版として位置付け、本館のミュージアム・テクノロジー部門を中心に、東京大学本部や東大北京代表所の諸氏らと共に、様々な角度から検討することになった。
 私たちが考えたことは、次のようなものであった。まず今回のイベントの趣旨が東京大学の紹介であることを考えると、展示の構成として最初に東京大学の紹介を行うのが適切であろう。それに加えて東京大学で行われている研究を例示し、最後にその中の一つの研究として惑星科学を取り上げ、「異星の踏査展」としてさらに詳しく紹介するという形が望ましい。さらに趣旨に添うためには、できるだけ多くの方に展示を見て頂く工夫をすべきである。宣伝が自由に行えないのであれば、宣伝しなくても自動的に人をひきつけるような仕組みできないだろうか。こうした要件に対して提案されたのは、学生の最も集まる学内商業施設のまん前に仮設テントを設置し、その中を区切って3つの展示パッケージを展開する、という案であった。ひと気の多い場所に奇妙なテントが急に表れたら、全く宣伝しなくても集客力を持つに違いない。
 それから数ヶ月間、テントの手配や内装の準備、電子機器のチェック、コンテンツの修正など、息をつく間も無いほど多くの作業に追われた。特にテントについては、予算や現地との調整が長引くなど困難が多かったが、幸いなことに東大の北京代表所や東大本部のスタッフによる現地での情報収集に助けられた。また東大を紹介する部分の準備には、学内の多くの部局の方々に協力して頂いたため、最先端の様々な研究を紹介できたと共に、留学生の視点から見た東大の魅力について、明瞭にまとめることができたのではないかと思う。
 このように大勢の方々の協力に支えられながらオープンにこぎつけたとき、テントは仮設と思えないような素晴らしい展示場へと変化していた。20m四方のテントの入り口には、東京大学と清華大学の両総長による大変友好的なメッセージが掲示された。東京大学を紹介するパートには、東京大学の沿革や概略だけでなく、研究分野ごとの国際競争力や留学生のサポート体制、特に際立った研究を行っている研究者のプロフィールや研究内容などが展示された。研究紹介のパートでは、これまで東京大学における研究の具体的な紹介を東京大学総合研究博物館が展示事業として行ってきたことを考慮し、過去の展示に関連したポスターや図録を一同に揃えてみた。最後に東京大学の具体的な研究成果を示すパートとして、最も大きなスペースを用いて「異星の踏査」展のモバイル版を展示した。
 展示は5月15日から21日までの、7日間行われた。清華大学内では宣伝活動が規制されており、展示会のポスターすら思うように掲示できなかったが、狙い通り奇抜なテントが抜群の宣伝効果を発揮し、開場と同時に次々と来場者が現れた。展示期間中に6500人以上の来場者があり、その盛況な様子は現地の新聞で報道されるほどであった。東京大学を紹介するパートは、東大における研究・教育面でのアクティビティが端的に理解できると好評であり、メモを取る学生の姿も見られた。研究紹介のパートでは、同じ漢字文化であるためか、図録が特に注目を集めた。異星の踏査のパートは多くの人で混み合い続け、大変に好評であった。映画でも見ているように、映像に群がっている姿が印象的であった。記念写真撮影する家族連れやカップルも見られた。清華大学は中国随一の理工系大学であり、また、中国が最近宇宙開発に乗り出していることもあるためか、来場者から多くの鋭い質問が展示スタッフに投げかけられ、展示スタッフと来場者との間で議論が盛り上がることもあった。
 来場者へのアンケートによると、約95%が展示を楽しんだと回答し、特に惑星探査の成果を説明する映像資料が好評であった。約85%が東大を知るのに役立ったと答え、72%が「東大ウィークat清華大学」についてテントで初めて知ったと回答した。人目を引く惑星の展示に引き寄せられて来場した方々に東大そのものも紹介しようという、こちらの狙いが成功したようだ。興味深いのは、来場者の60%以上が博物館や美術館にほとんど行くことがない(年に1回以下)とアンケートで回答していることだ。既存の建物に閉じこもることなく、こちらから出向いていって展示を行うという、モバイルミュージアムのコンセプトの正しさを再認識した。

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 図1 展示は人通りの多い商業施設前に設置した仮設
テントで行われた。テントの存在自体が効果的な
宣伝となった。



 図2 入口には総長のメッセージを掲げ、東大の概要を
紹介する展示へとつながっている。



 図3 東大で行われている研究の紹介を兼ねて、東大総合
研究博物館で過去に行われた展示の概要と図録を
展示したところ、思いのほか好評を博した。



 図4 惑星探査で得られた最新のデータを展示した所には
最も多くの人が留まっていて、記念写真を取る姿も
見られた。