東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
HOME ENGLISH SITE MAP
東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime17Number3



教育
IMTカレッジの複合教育プログラム

松本文夫  (本館ミュージアムテクノロジー寄付研究部門特任准教授/建築学学)

 産学協働プロジェクトとして進められているインターメディアテクは、その出発点から、大学と社会、学術と事業、キャンパスと都市の関係を新たに問い直す試みであった。産学協働の理念自体は新しいものではないが、通常は目標を決めて受託研究や共同研究のかたちで大学を拠点に活動を行うことが多い。今回のように、キャンパスの外部に新たな活動拠点を設け、企業との協働によって学術研究や事業活動を行うのは初めてのことである。「大学が社会に出ていく」という意味で今までにない取り組みである。
 一方で、博物館は大学の中でも社会とのつながりが深い部局であり、総合研究博物館ではこれまでに様々な教育普及活動が行われてきた。百二十を超える多分野の公開展示はもちろんのこと、学芸員専修コース(社会人専門教育)、ゼミやラボ(大学実践教育)、スクール・モバイル(初等教育)、各種の講演会やシンポジウムといった活動である。これらの経験と蓄積は、当然ながら外部での活動にも生かされる。
 新たな活動拠点が立地する東京・丸の内は、首都の中枢であるとともに日本のハブであり、社会人から子供まで老若男女のあらゆる市民が集まる場所である。そこにオープンするインターメディアテクは人々に開かれた無料の公開施設であり、東京大学の学術研究の成果を多様な表現メディアを介して感受する場所になる。インターメディアテクは単に一般的な見学の需要に応えるだけでなく、人々の先端的な関心や創造的な好奇心を吸い上げ、教育的な成果として結実させるような場であることが期待される。そのために、私たちはインターメディアテクの中に「IMTカレッジ」という教育実践の仕組みを設けることにした。
 「IMTカレッジ」は、社会教育と学校教育を包含した先導的な教育普及の実践体制である。インターメディアテクにおける公開展示等の事業全般と連携し、東京大学の学術資源および人的資源を基盤として、幅広い市民に対して、社会・文化・自然への理解を深めるための教育活動を行う。IMTカレッジの参加者が文化諸相のインターメディエイト(媒介者)として活躍できるようになることを目標にしている。教育プログラムを一方的に供与して終わるのではなく、カレッジの修了者をIMTのボランティア・スタッフとして登用するなど、施設の運営活動にも積極的に参加する途をもうける。
 IMTカレッジでは自然科学や人文科学を含む幅広い分野を対象とし、それらを横断的/専門的に学習する。教育プログラムは大きく三つの柱から成り立っている。多分野への知的関心をつなぐ「分野横断系プログラム」、個別テーマへの関心を深化させる「主題専修系プログラム」、一般来館者へ基本情報の提供を行う「概要入門系プログラム」である。これらの具体的な実施形式としてはレクチャ、セミナー、ツアーがあり、東京大学の教員または外部の専門家が授業を担当する。「シリーズレクチャ」は、IMTカレッジの基幹コースとして半年に渡って実施される分野横断系の複合教育プログラムである。「テーマセミナー」は、シリーズレクチャを補完し、展示と連携する中短期の主題専修系のプログラムであり、受講者が自ら作品制作に関与するワークショップ等を含む。「ギャラリーツアー」は、インターメディアテクの館内案内と連動した概要入門系のレクチャである。これらのカレッジ受講者用のプログラムとは別に、東京大学の授業の一部をインターメディアテクで実施することも想定している。また、小中学校などの団体来館者のためのプログラムである「アカデミック・アドベンチャー」の企画開発も予定している。
 IMTカレッジの実施要領は現在検討中であるが、概ね以下のような内容である。まず、IMTカレッジは毎年秋にスタートする。10月から3月までの秋学期に基本的なプログラムを実施し、修了者のうち希望する者は続く春学期にインターメディエイト研修へと進み、その後はインターメディアテクにおけるボランティア活動に参加する。IMTカレッジの授業が行われる場所は、インターメディアテク2階の「アカデミア」と呼ばれる特別な空間である。旧郵便局保存棟の中に東京大学医学部講堂の什器を向き合うように配置した階段教室である。IMTカレッジの受講は有料であるが、民間の社会人講座等と比較して低廉な料金で実施される見込みである。その運営管理や企画実践においては大学の社会連携課の協力を得る予定である。
 「大学が社会に出ていく」とは大学のやり方を単純に別の場所に移行することではない。大学が自律性を保ちながら社会との相互作用の中でその潜在力を高めることであろう。さまざまな関心分野を多様な表現メディアでつなぐインターメディアテクのコンセプトは、そのまま教育普及の理念にもつながる。すなわち、専門分化した学術の世界を外に引き出すことで、それらを接続し横断し融合する可能性が生まれる。「外部の視点」を獲得することによって、自らの関心を先鋭的に深化させる。このような知的ダイナミズムあるいは知的遊動を呼び起こすことが教育の真の目的ではないか。IMTカレッジはそのような機会を創出する場になると考えたい。




ウロボロスVolume17 Number3のトップページへ