東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
HOME ENGLISH SITE MAP
東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime17Number4



小石川分館
小石川分館学生ヴォランティアと「驚異の部屋」

上野恵理子 (本館特任研究員/インターメディアテク研究室)
慶野結香 (小石川分館学生ヴォランティア/大学院学際情報学府修士課程)
鶴見英成 (本館助教・小石川分館担当/アンデス考古学・文化人類学)

 小石川分館では平成24年9月末をもって常設展示「驚異の部屋 −The Chambers of Curiosities」が終了し、リニューアルに向けて新たな展示の準備が始まっている。日頃から分館の運営をサポートしている学生ヴォランティアが、展示期間の終盤において主体的に実施した2つの活動について報告する。
 
平成24年度親子見学会
 昨年で7年目を迎えた親子見学会は、夏休み期間中に小学生の子どもとその親を対象に開催する企画である。今回は8月4日(土)、5日(日)の2日間に、午前の回と午後の回それぞれ10組、計40組の親子に展示解説を行った。参加者は主に東京近郊在住者であったが、地方からの参加もあった。
 このイベントは学生ヴォランティアに対する博物館学教育の機会でもある。教職員はサポートに徹し、企画立案から当日の解説まですべての進行が彼らにゆだねられるのである。事前のミーティングは3回実施したが、まず6月17日の初顔合わせでは全体の打合せ・企画立案・グループ分けを協議した。7月8日には企画内容を調整して決定し、館内に「骨」「生薬」「観察」の3つのテーマに応じた標本解説コ−ナーが設けられることになった。8月2日には全体の最終打合せののちリハーサルを行った。 当日参加したのは山上慶・大澤沙友理・塩見真里奈(以上「骨」グループ)、利根川薫・慶野結香・山口加奈子(以上「生薬」グループ)、太田萌子・坂井景・佐藤彩日(以上「観察」グループ)、篠原貴子(司会・誘導・アンケート集計)、都甲友理絵(誘導)、奥山和(補助)の12名である。また、準備段階では野口拓馬・吉成佳純も企画立案に貢献した。各コーナーの内容は以下の通りである。
 
「骨」グループ(図1)
@シカの胎児について:種名を伏せたままシカの胎児の標本を観察させ、成長したら何になるか想像して絵に描いてもらう。約5分考えたのち答え合わせと解説。
A脊椎動物の胎児について:脊椎動物(魚類/両生類/爬虫類/鳥類/哺乳類)の5つの類を、それぞれの胎児の写真・図から、成長したら何になるか当てる。答え合わせの後、脊椎動物と各類について、進化と変化という観点から解説。
Bヒトの胎児と成長:ヒトの体にも進化の痕跡が残っている。手の親指と人差し指の間の水かきの名残や、お尻のしっぽの名残など、実際に自分の体に触れて確かめてみる。人間も動物の仲間だということ、胎内で進化が繰返されることの不思議さを感じてもらう。
 
「生薬」グループ(図2)
@これには何が使われている?:ある1つの植物を使った、食品や料理の画像のパネルを渡し、それぞれ何の植物が使われているか、親子で考えてもらう。また「生薬」や「生薬レファレンス・コレクション」について解説。
A生薬の小瓶を探そう!:パネルの植物(ローズマリーほか)と、机に並んでいる生薬の小瓶を一致させるクイズ。最初は子どもに考えてもらい、分からなければ親にヒントカードを渡して一緒に考えてもらい、分かった順に発表してもらう。
Bクロージング・実物紹介と小石川植物園との関わり:植物の実物を示しながら、分譲元の小石川植物園について説明。
 
「観察」グループ(図3)
@建物(小石川分館、旧東京医学校本館)の説明:木造である・むき出しの天井裏が観察できる・中央の吹き抜け(時計台を改修して通気口にした構造物)・擬宝珠(学校建築には珍らしい)などを、スライドによって紹介する。
A巡回:双眼鏡を渡し、2階の半分をぐるりとゆっくり回りつつ標本観察の場に向かう。適宜、建物解説時に挙げた箇所を指摘する。天井裏の木造の小屋組みをメインに双眼鏡でじっくりと観察してもらう。
B標本観察:サメ、ホシザメ、ヨーロッパトノサマガエル、メキシコサラマンダー、ムカシトカゲの液浸標本を対象に、動物の静止した状態を虫眼鏡で集中して観察する。最初に一言ずつ「観察のポイント」を紹介するが、基本的には自由に観察してもらう。
 
Last 2 days in “The Chambers of Curiosities”
 常設展示「驚異の部屋」が9月末をもって終了することに伴い、学生ヴォランティアが自主企画として9月29日(土)、30日(日)の2日間、「Last 2 days in “The Chambers of Curiosities”」と題したイベントを実施し、多くの方に足を運んでいただくことができた。現在の小石川分館学生ヴォランティアは、これまで「驚異の部屋」展のコンセプトや所蔵品の解説を中心に活動してきた。重要文化財建築と常設展示が奏でる重層的な雰囲気に魅了され、それを活動の原動力としてきた者も少なくない。リニューアルを機に所蔵品の多くが入れ替えになることを知り、できるだけ多くの方に改めて「驚異の部屋」展の空間を体験して欲しいという思いから、このイベントを発案したのである。すでに6回の前例があり、教職員側もサポートの経験がある親子見学会とは違い、まったく新規の企画なのでその準備は大変であったが、各自の特性を活かして協力し合い、実現することができた。親子見学会から引き続き参加した坂井・篠原・奥山・利根川・吉成・慶野に、竹田裕介が加わり、またポスターデザインを大澤が担当した。
 イベントは2部構成で、第1部は学生ヴォランティアによる展示ツアーを行った(図4)。主要な所蔵品を中心に、参加者との対話を楽しみながら解説ができたようである。また第2部では「キュラトリアル・トーク」として、関岡裕之本館特任准教授による「ART & SCIENCE PROJECT」(29日)、中坪啓人特任研究員による「交連骨格標本の製作について」(30日)と題する講演を開催し、主に展示や標本製作の過去・現在・未来について伺うことができた(図5)。ヴォランティアの多くが小石川分館で活動するなかで、博物館独自の展示デザインや骨の標本製作の舞台裏を深く知りたいと思っていたが、この講演によってそれを実現し、また来場者と分かち合うことができたのである。
 
新たな活躍の場へ
 小石川分館学生ヴォランティアは、土・日・祝日の可能な時間帯に来館者の対応や展示解説をサポートしてくれる貴重なスタッフであるが、平日は東京都内・近郊の大学に通う学生である。学業優先ということもあり、準備段階で全員の時間を合わせることや、たくさんの時間を割くような活動は難しい。しかしそのような中でも、彼らの尽力によって今年も親子見学会を開催し、さらに自主企画を成功させることができた。自分たちで考えた企画に対する来場者の反響は、今後の糧となることであろう。
 分館は休館中であるが、リニューアル後に展示予定の標本を対象としたキュラトリアル・ワークが、彼らの協力のもと始動している。また一部の顔ぶれはIMT(インターメディアテク)部門の第1期ヴォランティア(=インターメディエイト)としてさらなる活躍をしていただくことになっている。





ウロボロスVolume17 Number4のトップページへ



図1 「骨」グループ.


図2 「生薬」グループ.


図3 「観察」グループ.


図4 展示ツアー.


図5 中坪特任研究員による「キュラトリアル・トーク」.