竹田裕介(小石川分館学生ヴォランティア/大学院理学系研究科修士課程)
坂井 景(小石川分館学生ヴォランティア/法学部第3類3年)
阿部聡子(本館特任研究員/近代建築史)
上野恵理子(本館特任研究員/建築・美術解剖学)
鶴見英成(本館助教/アンデス考古学・文化人類学)
長期にわたり休館していたとはいえ、小石川分館学生ヴォランティアの活動は止むことはなかった。その間も勉強会という場を通して、積極的に動いていたのだ。その経緯を振り返ってみたい。
勉強会を重ねて
小石川分館では学生を対象にヴォランティアを募集し、普段は来館者への解説ヴォランティアを中心に活動してきた。登録メンバーは同世代の学生とはいえ非常にヴァラエティ豊かである。そこで、メンバーのポテンシャルを発揮できるような場を設け、小石川分館のさらなる活性化を目指し、勉強会を開始した。
はじめは主に研究発表の機会として異なる分野の内容に耳を傾けた。お互いの興味や背景を知ること、そして議論を交わすことは大いに活動の刺激となった。さらに昨年9月末の常設展示「驚異の部屋」の終了時に、学生ヴォランティアの自主企画「Last 2days in “The Chambers of Curiosities”」を開催できたことも交流の活性化につながり、勉強会の可能性を広げるきっかけとなった。その後、小石川分館は長期の充電期間に入ったことで、活動の中心は勉強会に移り、その密度を高めてきた。
いま述懐するに、休館中だからこそできたものも多かったように感じる。個々の勉強会がより充実してきたのは先述の通りであるが、とりわけ「本郷キャンパスを歩く」やキュラトリアルワークの実践、学内他機関(経済学部資料室)における研究資料の保存方法の理解、開館準備ワークショップといった試みは、これからの分館の可能性を広げる機会になった。ここではその中から二つの活動を紹介する。
本郷キャンパスを歩く
学生ヴォランティアの活動の拠点である小石川分館は東京医学校本館として本郷キャンパスに建てられ、その後数度の移築を経て小石川植物園内の現在地へ再建された。この経緯は学生ヴォランティアにとって知っておくべき基本事項であるが、通常の活動だけではそれを実感することは難しい。また、本郷キャンパスには小石川分館で催されていた常設展示「驚異の部屋」に関連するスポットも多く存在する。そこで、小石川分館に関連するスポットを中心にキャンパスを巡ることで、学誌財としての小石川分館や東京大学をより深く理解することを試みた。
当日は東京医学校本館が創建された場所である附属病院付近と、そこから明治44年に移された場所である赤門総合研究棟付近を実際に歩き当時の地図と見比べた。参加者は普段目にしている小石川分館の外観とキャンパスの雰囲気を重ねあわせ、かつての情景に思い耽っていたようである。加えて、「驚異の部屋」で展示されていたチャールズ・ウエスト像を原型としたブロンズ像や(図1)、建築模型群として展示されていた安田講堂と銀杏並木や工学部二号館などを見学した。これまでヴォランティアは各々の可能な範囲で展示物にまつわるエピソードを図録等で調べて展示解説してきたが、今回の見学会ではそれらの原情報を直接見て確認するという有意義な体験となった。とくに建築模型は分館リニューアル後も展示される予定であり、この体験はヴォランティアの今後の展示解説活動に活かされるだろう。
小石川にゲルを建てる
小石川分館リニューアル後には、大槌文化ハウス構想の原点となった(ウロボロスVol.18/No.2参照)モンゴルのゲルが展示される(本誌p.5参照)。2010年の寄贈当時に破損していた扉も上野の手で補修された。リニューアルオープン後の数日間は屋外に組み立てたものを展示するが、その後は部材を中心に屋内で展示する予定である。そこで本来のかたちを確認して屋内における展示デザインのイメージを膨らませるためにも、開館準備ワークショップとして部材からのゲルの組み立てを行った。
学生ヴォランティアと教職員のみで取り組んだ1回目のワークショップで完成したゲルはバランスの悪い、屋根がひしゃげたものとなってしまった。そこで、再チャレンジとして5ヶ月後に行われた2回目のワークショップでは3人のモンゴル出身の方に組み立て指導に加わっていただき満足ゆく形で完成させることができた(図2)。ゲル組み立ての経験は豊富であるはずの現地の方も苦戦されており、お話を伺ったところ、ゲルが見慣れない様式のものだったとのことで、一口にゲルといってもその多様性が痛感されたように思う。学誌財としても興味深く、非常に有意義なワークショップとなった。
ヴォランティア活動への展開
小石川分館学生ヴォランティアは各自が所属する大学・大学院の卒業とともに活動からも離れてしまうためメンバーの入れ替わりが激しく、また通常の展示解説活動で一度に活動するのは2名程度であるので、相互に面識のないメンバーも多かった。そこで多数が一度に揃う勉強会を行うことは、メンバー同士の親睦を深める上でも大きな役割を担ってきた。更に、勉強会をキュラトリアルワークの実践的な活動とリンクさせることで、その内容を通常のヴォランティア活動へ上手くフィードバックさせることができている。
いよいよ小石川分館もリニューアルオープンを迎えるが、こうしたヴォランティアの活動の結果から生まれたアイデアも活かされるはずだ。今後も学生ヴォランティアの活動を一層充実したものとしてゆきたい。そして分館リニューアルの後も継続的に勉強会を開催することが望まれる。
小石川分館勉強会一覧
鶴見英成「古代アンデス、点と線の考古学2012」2012/5/27、@竹田裕介「化石に生命を吹き込む―古生物学の現在」2012/6/3、A家城 直「匂いから情動の神経回路を探る」2012/7/15、B野口拓馬「幼少期の原風景―中原中也の詩をとおして」「食と農の博物館」2012/8/19、C竹田裕介「本郷キャンパスを歩く」2012/11/11、Dキュラトリアルワークの実践「考古資料の清掃(1)」2013/1/13、Eキュラトリアルワークの実践「考古資料の清掃(2)」2013/2/3、F開館準備ワークショップ「収蔵品整理とアフリカの楽器写真撮影」2013/5/12、G「経済学部資料室見学会(1)―資料保存の実践にふれる」2013/5/23、H開館準備ワークショップ「ゲル組み立てテスト」2013/6/8、I開館準備ワークショップ「教育用掛図の整理」・「本館特別展示『宇宙資源』&文化人類部門の見学会」2013/7/28、J「経済学部資料室見学会(2)―資料保存の実践にふれる」2013/8/5、K「測量機器トータルステーションによる測量実習」2013/8/9、L開館準備ワークショップ「建築ホワイト模型のメンテナンス」2013/10/19、M「ゲル組み立てテスト(2)・撮影」2013/11/3
参加者
関有沙・野口拓馬・慶野結香・都甲友里絵・仲田紗世・家城直・坂井景・山上慶・篠原貴子・竹田裕介・杉山和香奈・太田萌子・吉成佳純・井ノ上薫・山口加奈子・奥山和・利根川薫・大澤沙友理・垣中健志・志田康宏・太田哲也・花井智也(登録順、昨年度卒業生を含む)
謝 辞
勉強会開催にあたり下記の方々に大変お世話になりました。ここに記し謝意を表します。
館外協力者:小島浩之先生・矢野正隆先生・冨善一敏先生をはじめとする経済学部資料室教職員各位、カルジャ氏・トクスバヤル氏・アリ氏、竹内研生氏
館内協力者:大原知沙氏・清水晶子氏・白石愛氏・中坪啓人氏・藤野史子氏・棟方沙織氏
なお法師人ひとみ事務補佐員は全ての会の運営をご支援下さいました。