鶴見英成
(本館特任研究員/アンデス考古学、文化人類学)
矢後勝也
(本館特任助教/昆虫体系学、保全生物学)
門脇誠二
(名古屋大学博物館助教/西アジア考古学)
黒木真理
(本館助教/魚類生態学)
矢野興一
(本館特任研究員/植物系統進化学、植物分類学)
尾嵜大真
(本館特任研究員/年代学、文化財科学、宇宙・地球化学)
久保麦野
(本館特任研究員/進化生態学、古生物学)
藤原慎一
(日本学術振興会特別研究員PD/機能形態学、古生物学)
服部創紀
(名古屋大学大学院博士前期課程/機能形態学、古生物学)
平成22年10月、マクロ先端研究発信グループの門脇・黒木・矢後・鶴見が実施した「マクロ先端科学にふれるハンズオン・ギャラリー」は、最新の研究成果を博物館標本により体感的に分かりやすく発信する、という趣旨の展示イベントであった(本誌Volume 15 / Number 2〜3参照)。来場者は多くの標本を手に取り、あるいはきわめて間近に迫って、講師と双方向的にやりとりしながら学習できる。その第2弾として平成23年に企画されたのが「進化にふれるハンズオン・ギャラリー」である。今回新たに矢野・久保・藤原の3名が企画段階より加わり、第2回講演には尾嵜・服部が合流し、多岐にわたる専門性と多様な標本が結集した。
展示は視覚のみならず、聴覚、触覚、時として嗅覚・味覚などを複合的に組み合わせて五感に訴えかけることのできるメディアである。その中でも視覚を用いた伝達のウェイトは大きい。グラフィックパネル、サイン、内装、照明などがそれである。私は展示の企画、デザインを専門とするが、展示をつくるうえで留意していることの一つに、展示空間が醸し出すイメージを明快にすること、展示空間に特徴を持たせることがある。何故なら展示空間が展覧会のテーマやコンセプトが持つイメージや世界観に近づけられれば、展示を通したメッセージの伝達の効果を高めることができるからである。
Hands On 2
前回の実績や参加者アンケートをふまえてさまざまな改善が図られたが、最大の変更点は、前回終了後に課題として掲げられた「講師と標本をパッケージしたモバイル展開」が、名古屋大学博物館との連携によって実現した点である。第1回講演は本館にて7月18日に、第2回講演は名古屋大学博物館にて12月17日に実施された。若年層へのアピールが足りないとの前回の反省をふまえ、地域社会向けの次世代教育において実績を挙げてきた名古屋大学博物館との連携は、得るところが大きいと期待された。
標本の見せ方も見直された。前回は専門分野の異なる4名の講師がそれぞれ「ギャラリー」を設け、4つのギャラリーを廻ることで「生き物と人間の関わり」というテーマの全容が見える構成であったが、今回はギャラリー数を3つにおさえ、複数の講師が各ギャラリーを構築するようにした。これは学融合の姿勢を分かりやすく示し、包括的な学問展開を伝える工夫であるとともに、ギャラリーが4つもあると内容・所要時間ともに過剰である、との反省にたった処置でもある。
発信する研究テーマについてはいくつも検討されたが、講師の顔ぶれをふまえてかなりストレートな「進化と学術標本」に落ち着き、3つのギャラリーはそれぞれ「生物進化の概説」「身近に見られる生物進化の証拠」「人類進化と人文科学における理論的応用」という役割を分担することになった。
さらに前回の最大の反省点、広報活動に力を入れたところ、2日間あわせて前回の5倍近い参加者を迎えることができた。
第1回講演(7月18日、東京)
「ギャラリー1 骨から探る動物の形の進化」は、黒木(魚類生態学)・久保(進化生態学)・藤原(機能形態学)が担当した(図1、2、3)。企画展「鰻博覧会 この不可思議なるもの」の会場内にそれぞれブースを構え、展示内容と一部連動させつつ、魚類・爬虫類・哺乳類の骨格標本や剥製、そして本企画用に製作された関節部の可動式模型などを提示した。来場者にはそれらを手がかりに、食性と歯・顎の形の関係や、姿勢と骨格の関係など、生物進化の証拠にふれていただいた。
「ギャラリー2 ともに歩んできた植物と虫」は、矢後(昆虫体系学)と矢野(植物系統進化学)が、昆虫標本収蔵庫に共同のブースを設けた(図4)。集められたのはギフチョウ類などの昆虫標本や、カンアオイ類などの植物標本で、一部はこの企画のため新規に採集されたものであった。2都市での開催という地域性をふまえ、各地域に固有の分化を示す植物と、それに依存する昆虫の進化、さらには開発による衰亡に至るまで、来場者は標本から多くのことを読み取った。
「ギャラリー3 考古標本から暮らしの変化を探る」は、名古屋大学博物館の門脇(西アジア考古学)と、鶴見(アンデス考古学)が講師をつとめた(図5、6)。第四展示室内にブースを並置し、旧大陸と新大陸、石器と土器、長期スパン(人類進化)と短期スパン(国家形成)など、さまざまな対照性を盛り込んで相互補完的に構成した。石器は適宜レプリカを用意し、本物の土器は台上からの転落防止策をとって、来場者の手にゆだねた。門脇は名古屋より標本を持参しての参加であった。
来場者は事前に3つにグループ分けされ、参考資料を配布されたのち、それぞれ事前に指定された順序で30分ずつギャラリーを廻る。これを1サイクルとし、この日は合計3サイクル実施した。常設展・特別展と平行開催ということで会場内はかなり混み合ったが、時間厳守を徹底したためとくに混乱なく進行できた。来場者は受付において把握できた限りで179名を数え、当日参加者を加えるとさらに多かったはずである。
第2回講演(12月17日、名古屋)
動物骨格などを含めた多くの大型標本や機材を梱包し、講師ともども車両で東京から名古屋に向かった。名古屋大学の標本と組み合わせて3つのギャラリーが再び設営されたが、第1回からの変更点も少なくない。ギャラリー3では門脇が、化石人骨レプリカなど名古屋大学の標本をさらに加え、内容を充実させた(図7)。また日程が合わずギャラリー1から黒木と久保が離れたが、代わりにマクロ先端研究発信グループ新任の尾嵜(文化財科学)と、名古屋大学大学院修士課程の服部(機能形態学)が加わり、名称も「ギャラリー1 骨から探る動物の形と機能の進化」と改題した。尾嵜は安定同位体分析による骨からの食性分析を解説し、服部は恐竜と鳥類の骨格標本を比較して、さらなる研究展開を示して見せた(図8)。
展示会場内で実施した第1回とは異なり、名古屋大学では展示場と離れた講義室を使用したため、当日参加者は東大に比べると少なく、また午後のみ2サイクルの実施ではあったが、合計約60人の来場をみた。
今後の課題
アンケートの反響は良好で、次回もぜひ来るので続けて欲しいとの要望も多く、実際に昨年からのリピーターの方も散見されたのは喜ばしいが、まだまだ反省点は多い。なんと言っても、参加者の年齢構成を見ると、まだ中高生へのアピールが弱いようである。しかしアンケートによると、児童にはやや時間が長いという声がある一方、成人からは駆け足で物足りないという感想が出ているなど、幅広い年齢層を対象とするならば単純にたくさん呼び込むのではなく、相応の配慮が必要となるだろう。また広報戦略しだいでは、今より多くを集客できるイベントになってきたとの手応えはあるのだが、1日限りの開催だと今回の来館者数が限界である。講師はそれぞれ研究のスケジュールがあるため、日数や実施時間を増やすことは簡単ではない。来館者からの支持の声は大きいが、それに応えるにはさまざまな見直しが必要なようである。
とはいえ2つの会場にて合計240余人を集め、良好な反応を得た今回の試みは、大いに各自の自信につながった。各ギャラリー担当者の組み合わせ、さらに連携機関間での研究・標本の組み合わせを変えれば、新たなテーマや見せ方が生まれる。上述の課題群を念頭に、第3弾の構想を各自温めているところである。
(本企画は独立行政法人科学技術振興機構平成23年度科学コミュニケーション連携推進事業機関活動支援により実施された。)